以前一度、急遽翌日までにブラック・タイ仕様の小物一式を揃えないといけないことになり、黒のボウ・タイ(蝶ネクタイ)を老舗トラッド系のブランドショップに買い求めに行ったことがあります。結果的に、タキシード用の黒のボウタイと白の麻のポケット・チーフが同時に在庫してあったお店は、ひとつもありませんでした。考えてみたらたった1年前の話ですね。これだけ、トラッド・ブームといわれ、こまかいディティールがどうこう、とか盛り上がり語られまくる昨今、タキシード用のまともな黒のボウタイが東京の有名店に無い、との事実。優先順位ロス(優先順位を考えずに、物自体、ディティール自体に集中してしまい、全体観と優先順位の思考がゼロ、ロスしていること、僕の造語)している状況でした。
エドワードエクリュ的に、こまかいディテールは興味ない、むしろ全部要らない、基本のアイテムと、必要最低限のルールめいたものだけをしっかり知っていれば良いと、この時ほど怒りながら心に期したことはありません。結局、ヴァルカナイズ・ロンドンのターンブル&アッサーでコシのあるシルクの(しかしもちろん既製なので、アジャスターとフック仕様でした)ボウタイと、銀座和光で、ふつうの麻のポケットチーフを購入しました。全ヵ所タクシーで移動したので、在庫探しの都内小旅行につき、移動代が普通ではありませんでした。バーニーズ、ブルックス・ブラザーズ、ラルフ・ローレン、ポール・スチュワート・ダンヒル、在庫無しでした。
一番上の画像については、ホーランド&シェリー、老舗生地ブランドの生地バンチです。印象としては、生地全体が価格がやや高い印象があります。しかしながら、冒頭の話に戻ると、生地の品揃えが、紳士服飾文化の教科書のように、世の中がどのような流行になろうが、売れようが売れまいが、これとこれは絶対に在庫している、という一本の強靭な柱をしっかり持っています。そこに、おそらく10%~20%想像よりも原価コストが高価であっても、よい気分で、まさにあっぱれ!という、一票投じる心意気で、購入するのです。
トラディショナル風のテイストで展示し、商品を飾るのも良いでしょうが、オーセンティックなお店を名乗るのであれば、何時寄っても大事なものは変わらず在る、という絶対の信頼こそ、まっとうであるように感じます。色にしても、女性のモードの世界とも違いますから、あまりクルクル替えられると、2年3年越しで、お目当ての色を楽しみにしていた顧客がさびしい思いをすることになり、申し訳ないことになってしまいます。
上は、馬場馬術(Dressage)で数々の表彰を獲得し続けているスタリオン(牡馬:オスうま)である、“ エドワードエクリュ号 ” と前田氏です。エドワード号の毛並みの美しさと、ホーランド&シェリー社のミッドナイト・ブルーやブラックのギャバジン生地は最高の相性です。5年前から礼服全般の定番の生地としており、タキシードもギャバジンで作ります。質実合憲、失礼、剛健、優雅なドレープ。前田氏を始め、ジュニアの歴代チャンピオンもエドワードエクリュのスワロウ・テール・コートでドレサージュの最高峰を演じます。
とまあ、やかましい序章もほどほどにして、昨今ジャケットに限らず、スーツの色も徐々に選択肢が広がって来ましたよ。もちろん、スーツ世界にエントリーしたばかりの新人君たちは、ネイビーとグレイの2本柱で、春夏5着・秋冬5着は、必要最低限を揃えた後での話なのですが。。。どうしても、着数増やさず次に進みたい方は、エドワードで何度も提唱しているように、体型の似ている後輩ちゃんを見つけて、贈って全体着数を調整してくださいませ。
一番いいですよ。お古(ふる)教育ですよ。若いうちから、じゃんじゃんお金を使って、高価なブランドの洋服を購入する、というスタイルはあまり好ましくありません、例外はありますが。ふつうはセンス(テイスト)が身につかないように感じます。経済的な成功にフォーカスして生きる方々が、ハングリーだった期間をとても大切にしているように、センスにもそのような、ハングリー期がすごく大事です。すごく欲しいけど、買えない、というのは、自己センス育成黄金期です。非常に貴重ですよ。
ちなみに、上のイー・トーマスは、色彩のセレクトにおいて、アタマひとつ抜けています。コスト・パフォーマンス的な見方が好きな方も、お気に入りとなるでしょう。ただ、ついでで言うと、コスト・パフォーマンス、という考え方は絶対ではありません。それを嫌がる層もいることを知っていること、頭の片隅においておくことも必要です。ちょっと、照れくさそうに、コストパフォーマンスもいいですね、、、と言う感じが塩梅良いワキマエかもしれません。コスパを高度のプリンシプルのように認識して振り回すのは誤りです。世界が狭い。意識的には、日本においても、上の価値観レイヤーが3層以上はあります。
チャコール・グレイのシャークスキン生地。全身一式完全製作において、多用します。もしかしたら、2001年創業以来、一番使っている生地はチャコール・グレイのシャークスキンかもしれません。エドワードで多用する、フランス風の色彩、ペイル・トーンと非常に奇麗に合いますし、どのような色にもシックに決まります。鮫肌の刷毛目の風合が、マットでべったりしたグレイと違って、まるで大島紬(つむぎ)のような立体感です。なんといいますか、印刷などで、モノクロなんだけど多くの色、C/M/Y/K 特色を使うような感じです。
白も、ブルーもピンクもラベンダーもどのようなペイル・トーンも、グレイのシャークスキン生地のスーツは、すべて美しく控えめで頼りがいのある額縁として、寄り添ってくれます。これは、イタリアらしい、カルロ・バルベラの柔らか質感の生地です。カルロ氏の息子のルチアーノ氏は業界的に知らぬ方がいない、有名な世界的なドレッサーです。セーターの上に腕時計をするスタイルはどうしても好きになれませんし、絶対に真似しませんが、それ以外、特にイマドキでない、ジャケットやパンツのゆとり幅などは、完全に共感します。ルチアーノ氏の身に着けるアイテムのゆとり幅は、流行関係無く、目立つところの無い、ごくふつうの・まっとうなゆとり幅ですから。その考え方が良き英国風ともいえます。
上は、ポーラーという多孔性(多くの孔:あなが開いている)の生地です。よくフレスコといいますが、これは英国の硬派で優秀なマーチンソンという老舗生地会社の商標登録名なので、よりニュートラルにはポーラーというほうが良いようです。と言いながら、ふと感じたのですが、あまり用語にコダワリ過ぎなくていいんですよ。フレスコでイイです。間違えても良いくらいです。あれだけ、文法的な間違いを恐れすぎるあまり、みょうちきりんでナードな完成度で英会話をぎこちなくしてしまう、日本人のメンタリティを鑑みるに、洋服用語を完璧に使わないといかん、という強迫観念からスタートしてしまうと、臆病で神経質な感覚に拍車がかかり、長期的な時間軸で見るた時に、服飾文化の進化にマイナスです。良く学ぶ・研究することがゴールではなく、われわれは、現役の価値(今を生きている価値)つまり良く装うことがゴールですから。学ぶことが教養というよりも、知っていることを含めて “ 装える ” ことが教養です。
自由にどんどん、スタイルについて語る中で、正確な用語使いについての生き生きした、好奇心を持ち続ければよいと思います。絶対的なルールであるとしても、それをやわらかく前向きに捉えて “ 歴史を愉しむ好奇心 ” 程度の優先順位で弛まずコツコツ精進するくらいが、結果的に文化全体をわがものとするように思います。あとは、トラッド・ショップの親切なスタッフに教えてもらえば良いだけのように感じます。って横道に逸れましたが、このポーラー生地、いやフレスコ生地は、生地バンチ(生地を選ぶ際にめくる生地見本ブロック)において、クラスにいる、めちゃくちゃ美人で魅力的なんだけど牛乳瓶底眼鏡(ぎゅうにゅうビン底めがね:この表現自体が昭和すぎる)を掛けている、教室の隅で目立たない女子のような感じです。そして罪なほど地味すぎる佇まいをしていることに要注意です。
これも、スタッフがお教えするしかありません。この生地が、シワになりにくく、(あっても、太くてゆったり流れる良いシワ)ハリ・コシがあって、全体のシルエットをゆったり形作りやすく、落ち着いた生地であることは非常に気づきにくいです。発色も深く落ち着いていて、いい空気感を作ります。強捻の3プライ、4プライとありますが、少々重い感じなのですが、涼しさも確保されていて、優秀な生地といえます。たいがい、皆、最初の印象のギャップから完成品に驚き、そして気に入ります。このことで何が言いたいかと言うと、いつも顧客の好みにばかりに寄り添って、叶えまくり100%の存在でいると、顧客が装いの豊かさや美意識が育つ機会を損失することになるという、わかりやすいパターンだということを言いたいです。
たびたび、言っているように、オーダーメイド(カスタム)服一年生の脳みその中は、一般的には、セレクトショップの商品の知識と、ファッション雑誌の移り行く情報で出来上がっています。つまり、在庫を売るミッションのある、セールス・トークと、クライアントのCM・プロモーションをしないといけない立場からのポジション・トークを、“アドヴァイス”だと勘違いしている脳みその状態にあります。トラディショナルな服飾業界人であるならば、一旦ここをリセットしてさしあげてから、最低限の基礎知識、ルールを教えるという商売から離れた義務からクライアントとの関係性をスタートさせる必要があります。
世界的な傾向として、サラリーマン社長が、クォータリー(四半期)で、おのれのために短期的な利益を取り逃げする、短期的利益を確定しようとする。そして投資家がそれを期待し応援し促進させ自分が乗っかる。そんな行き過ぎたグローバル・ビジネスの悪しき側面(Greed is good principle )が、長期的な視野で育てるべき、あたかも美しい森林のように涵養すべきものである装いの文化を食い尽くします。刈り取りのみ一点に病的に精を出す(ためのマーケティングの終わりなき追及)、その状況が今です。ヘッドハントされてきた経営陣は、以後10年間の会社の運営に定量的に責任を持つ仕組みが必要なのかもしれません。
そんな立場主義、自分(=エゴ)という立場では最大に利益を上げ、全体では損失をしている、部分最適・全体損失が会社人の裏メニュー的な本音の価値感になりつつある昨今です。
さらに、昨今、日本の政治家のスーツ・スタイルが、あまりに酷いので、もはや、どんどん発信しないと間違ったお手本を日本中に振りまき、このままいっちゃいそうな、そんな暴走っぷりです。
昨今、このような美しいブルーもちょっとしたブームになりつつありますね。1トーンで秋冬はハイエンド・モデルを作っています。秋冬は、以前おもしろがって挑戦してみた動画もありますが、最高級カシミアでのビスポークのタートル・セーターもあります。タートル部分、袖丈、着丈などたて寸を中心にカスタムできます。昨年は実はシルバー・フォックス・ファーも企画製作しました。あといくつか企画したいものが湧き上がってきました。やはり、スニーカーもどうも、納得できないので、いずれ、コットンかレザーの白スニーカーを作らねばならないと感じています。さいきん、いいT-shirts などを作っているメーカーが出した2色使いのスニーカーを見てつくづくそう決心しました。やっぱり、つくらないといかんと。。近々、運営が簡単なヤフー・オークションでカフリンクスやボウタイの販売を始めます。7月の予定が、やはり8月になってしまいました。そこそこの忙しさの中で、最近フェイスブックで世界各地のあちこちをサーフしており、世界へと好奇心が拡大し、しょっちゅうチェックしているために、極端な電話嫌い・メール嫌い(よくそれで接客業が成立していると呆れられるものの)連絡もずいぶん進歩していると思います。もう一息の努力で社会人適応レベルまで行けそうな予感です☆