2019/09/23

Coccinelle. from Gentleman's bespoke to couture



Bloomingというコートについて製作ノートです。カシミアの揺らめきよりもウールは少しだけ硬質なイメージです。滑らかなメリノ・ウール、紳士の表記だとSuper160’sという15.5ミクロンという繊細な生地です。さわって独特のTouch 触覚がありますので、これをMuff ストールの短めのものを共生地(コートと同じ生地)でつくっています。肌あたりがしなやかです。


襟:エリの形は、Gentleman's Attire のスワローテールコート(燕尾服)の立ち襟に由来しています。通常のスタンドカラーだと佇まい的にマオ・カラー風になりますが、それ以上にストイックにも見えるようにしました。通常は、礼装用にもおしゃれ着にも白シャツでも立ち襟を作っています。その場合に胸に左右10本づつプリーツをつけてタキシードにも合わせる仕様です。


最近では、NHK の深夜帯でも放映されていたダウントン・アビーで、燕尾服は紳士の正礼装の最上位に格付けされる装いです。(とはいっても、昼間に勲章を授与されたり栄誉の典礼の後の、晩餐会や舞踏会というドレスコードのものです、用は格は高いけれど楽しむ席での最高の礼装ということになります)この切れ味の良いカーブ、数ミリのカーブの違いで変わってくるちょっとした粋なニュアンスを追究しています。


このデザイン画はクチュリエの星さんが描いています。デザイナーのぼくは言葉で伝えます。大学では美術部でしたが敢えて言葉で伝えます。イメージを形にする段階での、意表をついた表現で大笑いになることも多いのですが、明確にイメージがアタマにあることが多いので、打ち合わせの時間は瞬間的に決まることが多いです。できるだけ、余白、余韻、着る方々のアレンジの余地を残すようにしています。絵心次第で、どのようにも着こなせる、そう思います。


包みボタン、共生地のマフ、すべて印象は引き算です。できるだけ、アクセントやコントラストで引っかかりをつくらないようにしています。そのタメがある分、小物やアクセサリーがアクセントの余白という意味での白キャンバスに映えます。大枠のデザインのフレームは適正なローテーションで着まわすと10年くらい保たれるイメージでいます。味わいが出て、ゆっくりスロウに装いを愉しんでくださいませ。


腰まわりのギャザーも優雅な美しさになります。フランネル素材の底艶:そこつやも、上品なエレガントさを表現しています。生地の使用量もたっぷりなので、揺らめいた時、クルリと回転した時に、肩にかかってくる量感があります。その際は、The Dress というフィーリングです。これは、身を守る安心感になります。


detachable:ディタッチャブルな Muff : マフ(短めの共生地のストール)は、いろんなアレンジができます。この短め、というサイズ感は着用者の使い勝手の良さを想定しています。この背中側のスタイルはスコットランド北部の地名がついたコートである、ざっくりいうところのシャーロック・ホームズでも有名な、Inverness Coatインヴァネスコートの風情で羽織ることもできます。できるだけ生地独特の味わいを生かす形で、変化球にしすぎずに、その生地独自の硬質なドレープ(でも手触りが抜群にセクシーなもの)を愉しんでいただきたいです。


なんと表現しましょうか、この硬めの趣きあるシャープなドレープ、これはカシミアだととろみが強いので寝そべるようなソフトで角の無いラインになるのですが、この、ちょっと生地に緊張感のあるドレープというニュアンスが上質なフランネルの視覚的なご馳走です。


小粋な首もとのお洒落は、菱型のストールなどで、B.C.B.G (bon chic bon genre ポッシュで上品な)を気取るのもとてもいいですが、紳士物のアスコット・タイのニュアンスの方向に寄せるのも新鮮です。コクシネルでは、アスコットタイも普通に当然のようにジェンダレスにあしらいます。シンプルなキャンバスにピリリと粋なスパイスをあしらう、これが上質な基本フレームを持ちながら全体の洋服の数を少なくするコツです。


真知子巻きというのでしょうか、オープンカーの助手席でといってもいいでしょうし、サングラスをして、自分自身を外界に露出したくない気分の時、というのもありです。フランス映画やイタリア映画の大女優たちを参考にしてのプライベートスタイルでもあります。


シャルトリューズというリキュール色の表現が一番すてきかもしれません。元来グレイはどんな色とも合います。紳士服の世界で最初の1着を仕立てるにあたって、グレイのシャークスキン生地という選択をすることが多いです。その理由は黒靴もバーガンディ色の靴も、白・ブルー・ピンクのどの色のシャツにも、ほぼどのような色のネクタイにも似合うからです。つまり、少ない着数で多くの着こなしをカバーできる、という理由からです。これは、少ないアイテムで多くのヴァラエティをつくりたいレディスにも同じことがいえます。


英国老舗生地からイタリア老舗生地まで、ほぼ王道があります。深い世界です。婦人物のイメージ重視に偏りがちな基準と生地自体の上質さを測るために、糸そのものの、織りそのものの厳しい角度から実質的な見方をします。上質さの基準が明確な世界といえます。一定の安心できる上質枠を当然のこととして、タッチ(手触り)とルック(風合い)から選んでいきます。紳士の世界でもおうッと尊敬されるような、うるさ方がうーむと唸るような、そんな粋な生地、通好みの生地を選ぶことが多いです。広範な生地群から、創造力あふれる自由な見立て、審美眼でピリッとした一品を選びます。


ネイビーで幅2.0cmmほどのチョークストライプ、これも英国のロイヤルファミリーの定番スーツで用いられるような生地ですが、この生地にしても大きなアドヴァンテージが印象のコントロールにはあります。悠然とした2センチ幅のストライプ、これは目線を縦に縦に、上下に印象づけます。ざっくり言うと、スラリと細く見えるのです。面白いですよね。もともと紳士のアイテムが、本質的、実質的、自由な見立てによって、レディスの装いに向けてもアドヴァンテージを抽出できるのです。

英国にホーラン&ホーランという銃砲店由来のブランド(確か現在シャネル社の関連会社かもしれません)があります。ここの現在のデザイナーがスーパーモデル時代には、カール・ラガーフェルドにも愛された貴族出身のステラ・テナントです。カントリー、スポーツ・エレガンスをオーセンティックな紳士服地で表現していて、野趣あふれる生地であるほど、装おう女性のジェンダーがよりその人らしく輝く、という現象を上手に演出しています。僭越ながら共感します。


3種類の大きなコートの柱を作っています。左からロマンシング、ブルーミング、フォレスティエール。ジェンダレス、タイムレス、シンプリシティ、クラシックな意匠を各所に盛り込んでいますが、全体としてフューチャー・クラシックというニュアンス、空気感でつくっています。


海外Mag、モードの王道系は、星さんとたびたびビール飲みながら読んでいます。Vogue Harpers のFrance,UK,Italy,US のものはほぼ目を通しますが、これは、星さんも僕も学生時代から30年つづいている習慣、ルックブック読書です。


旅、美術、文学に加えて、やはり先輩業界人たちのルックによって色調や素材の感性がつくられていることは間違いありません。80年代後半までは日本の(女性)雑誌も読みました。星さんも同じような経験を経ているようです。彼はフランス映画の脳内ストックが膨大です。


テーラードジャケット、インヴァネス、ケープ、ブラウジング、ドレープ量、ブランドの動向以上に、そのもの自体の印象や特徴を捉えてその魅力の現象の理由を探る、この時間をクライアントとしていく新しい試みも有意義な時間ではないかと思っています。


coccinelle. コクシネルのプロデューサーでもある小西さんの親友、金澤の石田屋(いしたや)の八木さん。定期発行されている『眠音:Neon』の季刊誌の編集をされておられ、博覧強記と鮮度の高い感性で日々の衣食住全般においての尽きせぬおしゃべりのひとときでした。多くのクリエイターの方々がなんでもない語らいの中から、本質的で旬なアイテムを拾いあげます。紳士のビスポークの世界をクチュールの世界に持ち込むことで、新しい進化と価値を創ることができると思っています。

Blooming:ブルーミング、タフで着心地の良いアイテムです。日常に着られるコート、首元の佇まいは自由自在、それぞれの感性で花をいけるように挿してください。絵ごころといいましょうか、それぞれ御自身の自由な個性でピリリと効かせてくださいませ。そして、新しい巻き方があればぜひ教えてくださいね。


9月22日、僕への誕生日祝いに渡米していた実姉がボストンから買って来てくれた一冊。装い、テイスト、スタイル、シグニチャー、アリュール、アトモスフェア、キャラクター、パーソナリティ、、、そしてICON アイコン。人自体、あるいは人をとりまく余白の力のようなものを表現する言葉はいろいろです。男性女性問わず、スーツ、ドレス、レザーのライダーズしかり、成熟した装いはつきつめると意志や魂の在り方が象徴にまで高まって肉体と装いがツライチになる、ナチュラルに一体化する、つまり究極のシンプルへと行き着くのだろうと感じました。愉しみながらも、確固としたICON まで結晶化するとそこから見える景色はまた人生の醍醐味ではないでしょうか。



2019/09/16

coccinelle. コクシネルの誕生



個人的に5年近く封印していたレディズのデザイン・製作ですが2019年、今年の8月から復活させています。工場縫製とクチュリエの星さんとのハンドメイドによるクチュールの2種類です。『ロマンシング・ダイアログ』という1時間の『自分自身の未来像を描く』時間を設けています。


インタビュー形式での対話を基本としてポテンシャルの手がかりを見出した後に、そこから膨らませ展開させて装いを創る、という流れをつくりました。コミュニケーションを軸として展開させていくに際して、金澤の印象美プロデューサーである小西さん@Wordrobe Inc.の大きな協力をいただいています。


1 Metamorphose  人生や自身の変化を目的として変身できる装いを創る。
2 Advanced  装い上級者は既存品では無理でご自身のオンリーワンを創るしかない。
3 Integration  経験に加えてプロの企画製作力でプレゼンス統一に向かって創る。


ある意味アナログで、ユニークな『注文の仕組み』をつくった後は、存分にクライアントにむけてのクリエイションに没頭できます。


紳士注文服と婦人注文服の独特のセンス・技術・テイストを自由自在に駆使して、ジェンダレス・タイムレス・シンプル、そしてとりわけ上質にカスタムされた“その人だけの逸品”の企画製作をします。特に、レディスのクチュールを英国生地やイタリア生地のメンズアタイアからの美学をつくりあげて出現してくる作品は、凛々しさ・清清しさに溢れ、驚くことだと思います。


 過去を大切にしたり、自己を内省したり、時には迷ってみたり、ゆっくり考えたり、そんな時間がかかることを良しとしない昨今の価値観、時代の流れの中で居場所が失われていきそうな、そんなスロウな世界。


迷うことは短期的には経済合理性は無くマイナスかもしれませんが、ぼくらはこの迷って自分が決められないというセンスのいい方々(既存のものから選ばないといけない、という強いられた刷り込みから自由になっている方々)に向けても『フォレスティエール(森の散歩者・迷い人)』というアイテムをつくっています。(上のブルーのコートです) かつて存在したアルニスというパリ左岸のブランドの名作ですが我々はこれを2019年版にしています。


おしゃれ上級者の大人の女性で、欲しいものはイメージがあるのに全然売っていないから手に入れることができないという『巡礼者』の方々がいます。東京だと結構いる感覚です。それも、むしろ過去にファッション業界にいた方々。


『 いつから巡礼者ですか?』
『 1992年からです 』
などとはっきり年号を挙げられる方すら少なくありませんから。


やはり服というのは、されど服たがが服なのですが、人生においてかなり大事なものです。なぜかと言うと自分という存在に対してやはり服はきわめて身近な存在ですので。身近なところが気に食わないとなると、1日の、1年の、人生の時間のうちのそこそこ%が滅入ることになってしまいます。特に感性で生きているタイプの人間にとっては苦痛といえます。


スリークで底艶のあるイタリア生地からはじまって苦みばしった老英国紳士が気に入りそうなドライなミディアムウェイトの生地、本格的なLovelyハリス・ツイードの生地までとことんありますから、愉しい世界です。新しい贅沢な世界がそこに広がっています。


紳士生地の贅沢さの方向性を知る、これも特殊な美学の嗜み、ユニークな教養ともいえます。フラワリーな、あるいはファンシーなテイストが苦手という女性も一定数おられるので、そういった方はここを気に入っていただける可能性もあります。


お茶しながら、一杯やりながら、デザイナーとクチュリエとの対話を通して、敢えてそんな生地で大人の女性のドレスを作ってみる、紳士服独自の堅牢性と仕立て映えがスパイスとなって、永遠に着られる逸品が手にはいるはずです。迷いは創作には大いに必要な過程です。大いなる迷いを経て終には成果物を手にする、ささやかなハッピーエンドじゃないでしょうか。