2019/10/13

自分だけの独創的な青い鳥を手もとに



いろんな表現で、あるいはさまざまな切り口から進化したオートクチュールやビスポークの体験、プロセスを表現することができますが、本質的なところではデザイナーやクチュリエとの対話のプロセスを購入されている、といえるのではないかと思います。もちろん言うまでも無くドレスあるいはスーツという最終的な成果物を手にするには間違いないのですが、専門的なアドヴァイスを含め、その方の美的な佇まいを動きの中で捉えたり、生き方として体現されている哲学的な世界観を装いとして結晶化するにあたり、その都度その都度、具体的なひとつひとつの判断を委ねていただく、というステップが醍醐味だと感じます。



ショッピング、物を買う、というのはもはや旧式の行為のように感じます。”ショップ”:店にingがくっついて動名詞になっていて、店に行ったよ、買ったよ、という単純で即物的な行為ですね。人生で体験するあらゆる感覚のいろどりの種類が極端に少ないように思います。心の中で自らの感情が、退屈なんだよ、とぼやいています。

アトリエへ出むきぜひ対話をいたしましょう。お越しいただいた時点で、ご相談をコミットされている:決めておられる時点でもうデザイナーもクチュリエも味方につけています。自己判断の外に出られないまま、自己判断の終わりの無い繰り返しの(迷いの)世界から、ぜひヒリヒリする外の世界に飛び出していただきたいです。



先日の金澤でのアトリエショーの風景です。御自身の強みを客観的に認識されて、1歩1歩プレゼンス全体、印象全体をコントロールするプロフェッショナルに近づいていかれます。たとえば、御自身の目線からだと上からの角度がついていますので、体のカーヴィーラインを正確に捉えることができません。

よくあることは、御自身のヒップボリュームが大きすぎると錯覚するポイントです。そのために、水平の角度から写真を撮って正確な状況をお見せしています。自分が見ている自分は、御自身が作り出し、他人が受け取っている印象とは異なるという事実を認識していただきます。


鏡にうつっている姿が決して全てではありません。動きの中でひとはひとを捉えます。どちらかというと、動きで捉えたほうが正確だといえます。自然でうつくしい所作、そこに添うドレープ:生地の揺らめき、ブラウジング:生地のふんわり感、それらが立体的な印象となってまわりの空気をつくり景観のひとつとなります。部分にも集中する必要は当然ですが、この、ニュートラルな視線でバクッと観る、全体観がとても大事です。細かいところばかりに気を取られると気がつくと全体のシルエットを見逃してしまいます。



従来のレディズのファンシーな生地が徐々に時代遅れになってきています。スペック的な実力もそうですが、メンズ生地の卓越した耐久性と、抑えた艶感や色調がタイムレスなアイテムのための重要な必要条件になっているからです。年間30億着という廃棄在庫の時代にあって、日々ファストファッションで使い捨てサイクルを演じることの残念さが、精神性の低さを表現してしまい、赤裸々に意識の低さを現してしまう時代になってきたからです。



今回のコートサンプルのNo.3モデルであった『フォレスティエール(森の逍遥者)』です。いち早くここに反応してくれたのが、20年前のエドワードの記念すべき第1号クライアントであった明美さんです。セーヌ左岸の旧アルニスの普遍的なモデルから企画しています。本来の紳士物のアイテムを"オートクチュールするワークウェア"と位置づけました。パリお洒落感度が高い彼女が選んでくれたのがとても嬉しく感じました。軽井沢の森をこの装いで散歩する姿が想い浮かびます。


今回、日本製の非常に優秀な生地をいくつか使用しています。こちらのメリノウールはSuper160's のフランネルで日本の老舗生地メーカーがニュージーランドの農林水産省にあたる部署とコラボレーションしてつくったモデルです。日本人は不思議な生き物です。このすばらしい卓越した素材を見抜くことができず、これが海外メゾンが仕入れて加工して里帰りした数倍になった時点で購入意欲がわくといった精神構造になっています。僕らは源流でこのレベルを見出して速攻で製作して実用範囲内の良心的な価格で我が愛用品にしようと目論んでいます。


その素晴らしさを認識するために、実際役に立つために、スーツと共生地(同じ生地)のストールにしてミニマルトーンコーディネ―ト上級者アイテムを愉しみます。首元の肌当たりも最高です。生地自体に腰がしっかりしていますが、表面がすこぶるソフトでしっとりしている感覚はいいようのない官能があります。くしゅくしゅっとマフにしてVゾーンに挿す感覚もノンシャラン風情でいながら、しっかり佇まいをコントロールしています。




なんてことない白シャツに。でも良く見ると比翼なんですね。目立つか目立たないかという箇所に工夫をこめてフォーマル気味に倒しています。実はこのままタキシードシャツにも100点満点で対応できるのですね。黒の手結びボウタイを持参していれば、いつでもジェームズボンドになれます。白シャツは深くて愉しい世界なので、2019年2020年も一層深堀りして、クールながら上品で官能的なアイテムとして研究していこうと思っています、たのしいですよ。



丹後から、絹織物の老舗宮眞さんより宮崎さん。裏地を美しい絹で、という研究案件で広尾のアトリエにいらしてくださいました。幽玄な魅力を誇る丹後の海、天橋立でした。昨年、うかがってインスピレーションをたくさんいただきました。こればっかりは体験してみないとわからないと思います。彼岸につながっているような、黄泉の国につながっているような丹後の海。その色。月の光に揺れる夜の丹後の海、ミッドナイトブルーに染められた絹の裏地。バサラの派手さよりも、アンビエントで静かな月夜の海のバイブレーションがいいな、そう宮崎さんとも共感しています。


普通に見えるネイビーもいろんな深みがあります。トラディショナルの魅力はこの深さだと思います。歴史の深み、味わいとコク。悠然と挿している堂々たるネクタイの佇まい、これがケント公のシグニチャーです。シグニチャーは目立たないといけない、ということもありません。控えめでもいいのです。アンダーステイトメントでいいわけです。ただ、そのネイビーがちょっと個人的な特別な色の深さをしていてもいいですね。ビスポークの愉しみは無限に広がっています。




メンズの生地といわれていたものを、女性のワンピースに使っています。ウィンドウペイン、御自身の姿勢の矯正にもなります。そして、野趣あふれる英国調のフランネル生地は、むしろ番手の高いシャイニー系の生地よりもいっそう女性を繊細に見せます。もともとフランネルは野良着ですから、これで庭の手入れをしたりバラの手入れをしたりタフな素材なんですね。それでいてラウンジーな雰囲気もあります。そもそも印象が柔らかいのですね。物そのもの素材そのものの風合を何の偏見もなく捉えると、いくらでも無限大に女性が輝くジェントルマンエッセンスのハンサムウーマンたちの着こなしが目に浮かびますよ。


日本海:JapanSea です。この海は切なくなるような不思議な魅力がありますね。美味しいお鮨の原材料が生み出されるだけの場所じゃあ決してありません。この静けさ、静けさの中に在る小さいけれど確かな力のうねり。ここに大人の詩情を見ずして何を見ましょうぜ。。。


KeiichiroEcrus として、連作させてもらっているケイイチロウ君です。エドワードの関係者、コクシネルの関係者全員が彼の手による鞄を最終解答とわかっているんですね。一直線にここに来る、筋のいい若者たち、日本も安泰ですね。模範解答であり理想解答の鞄たちが刻一刻と生み出されていて、目が離せません。サンローランルックのスーツをエドワードで作りました。よく似合いますね。


ウェディングドレスのオートクチュール、こちらも経験が醍醐味です。まだ家具もなにも入っていない入居したての3月に、広尾アトリエでは第一号の花嫁の採寸がありました。花嫁が心身ともにフィニッシング、Finishing 画竜点睛するための、一定の期間と位置づけてもいいように思います。クラシックなドレスの知識を伝授する機会にもなりますし、こちらの体験が、海外に行った時でも通用するように優雅な教養を身に着けるひとときでもありますように、祝福の時期を実力強化といっしょに応援しています。プロのアドヴァイスとイマジネーションのご馳走、惜しみなくお届けしますので、ぜひ御自身の感性に響かせて自然な御自身の、独創的な美意識の一助としてくださいね。