2020/04/27

きれいなことばとなって響いてきました。




『 失われたことばを取りもどす 』くらしのドレスが、小さなさざ波のように広がっていきました。100年に1度のこれだけの有事にあって、なお人々にとっては、そこには装いの愉しさが存在したのでした。素敵。。SuperMoonProjectの仮説と検証は、遠くの汽笛のようにゆっくり響いて奏ではじめ、楽しげな唄声こそが、ひとつの解答でした。ありがとうございます。


紅茶とヴィクトリアンケーキのお店(ティーコジーはエドワード製)の御主人だったMさんからの今朝のメールのコトバが素敵だったので、ご了承のもとで転載いたします。コクシネルは、英語のDrapeドレープを一般的な皺しわ、と表現せずに『揺らめき』と表現していますが、ここにもうひとつ訳語が加わりました!Drape『さざ波のようにゆらゆら~』いいなあ~

フェルメール・シリーズで使用した生地は、ほぼ全員『上質なシルクのようですね~』と表現されるのですが、これだとウールの素晴らしさがシルク換算になるので自分たちで使うのは避けていました。


でもホントは1番わかりやすいんですよね笑。そんな感じで、コトバにこだわって意地を張るのもたまには大事なんですよ。ウールってすばらしいですから。隅田川沿い散歩してすれ違う99%はシャカシャカ石油系のスポーツウェアです。。先日駒形橋から蔵前橋までの間すれ違った約50名の通行人(ほぼジョガー)のうち、ぼくともう一人だけが、石油系ウェアではなかったです。ちなみに、こちらはウールのパンツとセーター、もうひとりは、アメリカ人風の男性でネイビーのアランセーターとデニムとコンバースでした。


ちなみに、さざなみを英語では、rippleといいます。これは実はよくできたもんで、転じて縮緬(ちりめん)の英語でもあります。2018年9月、みんなで丹後シルク、ちりめんを体験しに与謝野へ行ってきました。下はKuskaさんの工房にて。シルクもちりめんも優れた素材です。

この2020年の夏物スーツもベージュ系、砂漠色系のウールの縮緬素材でのスーツを推しています。これはスーツ生地の中で世界一涼感であることと、トラベラーズ・ウェアであることに理由があります。旅装として最高だからですね。くしゅくしゅっと丸めてトランクに入れてもひと晩で皺から復帰します。。すごいことですね。


シルク系の話題に戻ると、20世紀初頭のフランスのドレスメーカーの社名であるジョーゼットも縮緬属の一般名なのですが、18世紀前半にはすでに丹後ちりめんがどんどん創られているわけですからね。もともとはアジアで育まれています。ジョーゼットの厚手はデシン、薄手はシフォンとなります。どちらもことばの響きが奇麗ですね。


シルクデシン、つまりシルク・デ・シンのシンはChinaのことですし、シルクシャンタンはシルク・シャンタンのシャンタンShandongつまり山東省ですね。東洋のエレガントなTycoon:大君の残り香です。StayHomeに見出す愉しみは、C禍以前のブレーキが壊れた暴走特急内で繰り広げるどんちゃん騒ぎから一転して、小さな出来事から価値をていねいに掬い取る静けさにあるのだろうと感じます。


2020/04/14

understatement



静かな情熱を持って復興の一歩を進める準備。C禍が治まり有事が無事になる日々に想いを馳せながら、備忘録がわりに昨年のSpiritSuitsの物語を備忘録として書いておこうと思いました。

『君かっこいいね~』 金曜日夜の丸の内、いまどきのスーツスタイルで装った年上のビジネスマンから声をかけられる。『あぁ、はい、どうも、、』 一見ぼんやりしたその微笑みに、どんな想いSpiritが宿っているのか相手はわからないだろう。understatement アンダーステイトメント:たびたび、その訳として『控え目な(謙虚な)』とファッション雑誌などでは言われる。


しかし先日ネットCambridge University Pressが出している辞書を読むと、まずは、
 a statement that describes something in a way that makes it seem less important, serious, bad, etc. than it really is, or the act of making such statements:
実際より、たいして重要じゃないかんじ、それほど深刻じゃないふうで、それほど悪くない感じ、という解説があって、『実際に思っているよりたいしたことない風情でいる』って解説されていて、こちらのほうが、『控え目な』という謙虚風情よりもずっと感覚的に響いた。


ふと、記憶がさかのぼること、都内を豪雨と強風が荒れ狂った20191012日。エドワードエクリュ田園調布サロン。パートナーの前田邸の地下室を完全にセヴィルロウのアンダーソン&シェパードそっくりの内装にした秘密基地だった。


たいがいニュースが騒ぐときは逆だよ、と避難直前までラインしていたものの、予測を外し、完全に地下は水没し破壊されたのだった。翌日はきっと猛烈な快晴で空気もきれいだからピクニックでも行こうかなとうそぶいていたものの、翌日はパンプ3台で地下室にたまった300トンの水を夕方まで汲み上げ、そこから復旧作業がはじまった。


すべての水没した衣類を引き上げ庭に置いた時、そこはまるで飛行機の墜落現場のような様相を呈していた。そこから全部の衣類を高圧シャワーで泥を跳ね飛ばし、捨てるものと生かすものを分類することになったものの、世界のあらゆる上質生地をつかった最高のスーツ群は結局のところ1着たりとも捨てられなかった。






ウーバーで駆けつけてくれたアレックス氏が次々とトランクに詰み入れて自宅へ持ち帰った。


そこから彼は自宅の浴槽で4度の洗いすすぎを行った


南青山と西麻布の腕のいいと評判のクリーニング屋に運び込んだ。








いぜん、インターネットラジオの番組で、就職したてのお金が無い若者が質問してきて、本気で軍資金が無い場合どうしたらいいんだ?という質問に、『自分が尊敬する、そして体型が近い先輩からお古を貰えばいい』と答えたことがある。貰った後輩は先輩に感謝し続けるし、自分の分身のような装いの後輩を大事にしない先輩はいないはずだ、とも思っている。(それくらい、受け継げるぐらい、そもそものスーツが丈夫でなければならないのだ)。




クリーニングが出来上がり、広尾のアトリエに運び込んで、もともとが前田氏のサイズのスーツを佑樹君とアレックス氏にお直しする試着大会を行なった。1着1着妥協せず、丁寧に測ってお直し伝票に記入して工房へ発送した。そこで、仲間のアキさんがこれまた丁寧にわかりやすく仕分けて書き直し、お直し工程へと送った。


全員身長180以上なので、縦方向はほぼ題なく、横寸ややゆとりを持って詰めてカスタムを完成することができた。2人とも自身でオーダーしたスーツはタキシードまで含めて相当な自前コレクションがすでにあるが、なお、先輩のお古をお直しして着る。これをSpiritSuits と呼んでいる。10年は着なきゃいかん、といいつつ、すでに10年以上経過しているものが混じっていた。


というわけで、冒頭につながる。新品のいまどきのデザインのスーツを着た年上から、泥水から復活を遂げ自分用に修理をしたスーツを着た青年は軽い調子で声をかけられる。

『きみかっこいいね~それどこのスーツ?』と。

『ええ、ああ、あまりどことか気にしないんですよ、、、』

一見ぼんやりしたその微笑みに、どんな想いSpiritStoryが宿っているのか相手はわからないだろう。


微笑んでいる青年の足元を見る。きれいに磨き上げられた年季もののクラシックな靴。そしてその横にはこれ以上無いくらい優雅で風格のあるバーガンデイのダレスバッグ。年上のビジネスマンは、ようやく気づく。あれっ?と。。。

スタイルを持つ男が、流行を生きてしまっている自分のことを微笑みながら見ているのだということを知る。そして雑誌やセレクトショップには解説されない、静かな絆で受け継がれている装いの世界が、この世には存在するのだ、ということを知る。