旅の初日は快調だったものの、次の日あたりからパソコンの調子が悪くなりました。正確に言うと、ちょっとした新しい設定ができなかった(おっくうさにどうしても打ち勝てず)のが理由でもあります。もし続編を待っておられる方がおられたとしたら、たいへん失礼いたしました。きわめて最低限のIT知識しかもっていない状況も“ごくまれに”不便です。
はや、帰国から1週間が経っており、なんだかんだほぼ毎晩アイラ・ウィスキーを飲んでいる現状を考えるに、人はそれを “ おまえはすでにハマっている ” と呼ぶのかもしれない、と宵(酔い)越し、うすらぼんやり思う次第です。近寄りたくなかった禁断の果実を、とうとう、またひとつ食べてしまったらしいです。運命には逆らいません。
14日(木)、15日(金)とエジンバラにおり、16(土)の早朝グラスゴー、そしてアイラ島へと向かいました。エジンバラ始発電車5時55分、GoGoGo、覚えやすいです。グラスゴーは20代だったらダンスミュージックで表現するならば、マッシヴ・アタック的というか、ブリストル・ビート的魅力を感じたかもしれませんが、今はゆったりした古都エジンバラが落ち着きます。17日また同じホテルに帰ってくるので、荷物はストレージに全部置いてもらいました。
着用したタキシードに現金、携帯電話、カード、お土産を持って過激に軽装な礼装で出発。酔狂にもアイラ島ではずっとタキシードで通しました。早朝、冗談好きのドアマンのリックにパームコートで撮影してもらいました。ここ夜はボリンジャーというバーになります。
池袋や新宿にいるより個人的には迷わないシンプルな駅のデザイン。ぶっきらぼうながら非常に機能的です。すべての電車が同一平面上にあるので、間違っても地下に潜ってという足労がありません。シンプルに利便性を考えたら駅のデザインはこうなるしかありません。途中、どうしてもどこかの売り場を通り抜けないと目的地に到達しない、というマーケティング設計だと確信犯的にひとを道に迷わせるデザインになります。それもそれで面白いですが(時間があるときは)。。
このDawnPinkドーン・ピンクという淡いさわやかなピンク色を見ることができる醍醐味、これは朝起きの愉しみです。甘く、気持ちよく、やさしく一日をスタートできます。ひとつ前に座っていた窓際の女性の島を眺める表情が印象的でした。過分な妄想族の僕は彼女の人生があっという間に勝手に物語化され、勝手に感動していました。
アイラ島に到着し、宿泊先のボウモアのコテージまで20分ほどタクシーに揺られます。やはりウィスキー関連の仕事をされていて、お気に入りのお酒やレストランについてあれこれ教えてくれました。食べ物やお酒の話をすると一気にいい笑顔になるのは全世界共通ですね。
コテージに到着。今回のアイラ島の主役であるY氏。すでに朝から愉しい大人パーティーがはじまっていました。僕はウィスキービギナーなので、そもそもその価値が良くわかっておりません。目の前に出していただいたもの、薦められた一杯をとことん真面目に飲み干すのみ。食わば皿まで、飲まばグラスまで。その肚決めはタキシード1着でアイラを乗り切るところで表明しました。
コテージは大きさの違うオーブン3種類も完備され、広いキッチンです。日本からY氏ご友人で世界を舞台にひっぱりだこで活躍されている料理職人O氏が台所に立っていました。ああ、これは非常に贅沢な旅なのだ、と一気に喜びが膨らんで、うれしくなりました。肉の焼き方、魚の選び方、などさわり部分を少し教えていただきました。今後、氏とヨーロッパで合流できたら最高ですね。
このブラックボウモア、たいへん貴重で贅沢なウィスキーらしいのですが、これを朝から飲むクレイジーさの度合いは理解していません。みなで和気あいあい愉しみました。隣にいたドイツから来たクリューガー氏、ミッシェル氏からすすめられるままに、いろいろな(ありえない)マリアージュを愉しみました。
サラダに掛け、アイスクリームに掛け、マジパンをブラウントーストに載せてバターつけてジャムつけてその上からかけ、洋梨にチョコレートを載せてその上から掛けと、徐々にこちらも酔いがまわって来て、めっぽう気持ちよくなってきました。酔うと、忘れていたドイツ語も思い出し、調子に乗ってクリューガー氏とドイツ会話もいくつかできました。
もはや、“早飲み”というライトなものではなく、文字通り酔狂な secret society " Black Bowmore Breakfast " Club の誕生した瞬間でした。その後、これは何の集まりなの?とアイラのレストランで訊かれるたびに、そう答えていました。言われたほうも、心得たものでその酔狂さをブレンドした架空の権威に、架空の礼節で応えてくれ、クレイジーで愉快な展開となりました。
コテージは快適でした。素朴な雰囲気を湛えながら、押さえるところはキチンとおさえる、という最も理想的で快適なプライベート・ラグジュアリーの基本に徹しています。この島のメインディッシュは何か?訪れるひとびとの気持ちを大切にしている、ということでしょう。
現実的にお酒が強くない人間にとって定期的に服用するウコンサプリメントは必須となります。
ウィスキー漬しのブレックファストがおわると、ソファーに移動し、ちょっとくつろいだ時間。そこに当然のごとくウィスキーが待ち構えています。3本のクラシックの奥にちらりと覘くのが、バチェラー・パーティー用(結婚前の不謹慎なバカ騒ぎパーティー)のプレイメイトがヌードで登場しているウィスキー。すばらしい。バカ男子的お祭り騒ぎは全世界共通です。
アイラにある、たいへん詩的な佇まいのラウンド・チャーチという教会での挙式でした。全面的に感動いたしました。土地の気を全身に感じる・焚き込むという御馳走につつまれながら、ひじょうに心を動かされる式でした。Yさんご夫婦、永遠におしあわせに!
新郎役のダンカンさん。スコットランド製チャーリーズジャケットとキルト。完璧な一式で新婦の父親役で登場。
今回は、エドワードエクリュで新郎Y氏の全身の装い一式(ジャケット・ベスト・シャツ・カフス&スタッズボタン、キルトスカート、ボウタイ、ソックス、ギリーシューズ、、、スポーレンはご自身入手)を製作したご縁での挙式参加、というのがアイラ島訪問のメインディッシュでした。もともとは、妻と新婦がお友達というご縁です。これも不思議で、昨年秋ごろにご夫妻と神楽坂のアイリッシュバーで一杯やりながら、 “ Yさん、次はもうキルトでいきましょうよ ” と半ば冗談で話していたのでした。このような最高の形で実現するとは思っていませんでした。
遠くに海が見える、小高い丘の教会。こんな美しい風景はそうそう見られるものではありません。感動しました。
プライベートに戻った神父(おそらく牧師でなく、と思いますが、確信持てず)。氏のツイードがすばらしく、褒めると50年以上前のモノとのこと。どうりで。知れば知るほどOld is best. という逸品がこの世にはたくさん存在します。
ほっと一息、で杯を傾けます。コテージ隣の蒸留所にて。お二人のチェックはマクドナルドというディストリクト・チェック(タータン)です。これは日本からHarrisons of Edinburgh のもので作りました。400グラム前後の生地でまさに今回のように旅に持参するにぴったりのものです。本気のキルトのファブリックは猛烈にヘビーオンスなので、旅には向きませんね。
どこでも、片手に一杯。蒸留所をまわって、その製造工程自体がおおいなるメッセージであることがわかりました。究極のスロープロダクトです。
普段、ソーダ割りでよく飲んでいるラフロイグ。老舗が生き続ける方向性として、ボウモアとまた異なり、合理化を進める中で伝統を守ろうとする老舗です。ヴィジターセンターの充実したプレゼンテーションは、贅沢な大人の社会科見学といえます。もちろん作業工程、風土、歴史、ありますが、その老舗の哲学が長い歴史の中で淡々と語られています。多くを学びました。
生き方も含め、昨今世界の紳士服業界における本当にセンスの良い方々からの評価がぐいぐい上がっているチャールズ皇太子。逆風もなんとかやりすごした氏の人生も尊敬いたします。タキシードの着こなし、フレッドアステアよりも歴代のジェームズ・ボンドよりも誰よりも必要充分な華麗さと、端正さを湛えております。氏の言葉にも静かで深いディグニティーを感じます。