2026/07/05

物語を買収する

先日のCHANELのCharvet:シャルべ 買収は、部外者の私でさえ感心させられました。彼らはココ・シャネルという一人の女性の人生史を、なぞるように買収を進めているようです。

たとえばロンドンの銃砲店、ホーランド&ホーランド。ココがウェストミンスター伯爵を通じて英国貴族の美学——ツイードの手触り、狩猟服の合理——に触れた原体験につながる場所です。

私自身、二十年以上前にロンドンで同店の前に立ち、その圧倒的な格好良さ、スコッチウィスキーの古いラベルに出てきそうな老紳士たちに気圧されて店に入れなかった記憶があります。


そして先日七月一日、シャネルはパリのシャツの老舗シャルベを買収しました。ココが生涯の恋人ボーイ・カペルに、シャルベのシャツを何着も贈った——そういう逸話があります。偶然にも私は発表の数日前、あの店でポケットチーフを購入した、カスタムルームを仲間と見学していました。

普通のコングロマリットは、シナジー効果と利回りで買収先を選びます。そりゃあ実際のところはわかりませんが、シャネルは、創業者の人生の「章」を選んでいるようにも見えます。現実的にはホーランド&ホーランドは商業的には約三十年ののちに手放されました。それでも、この損得を超えた一貫性が、熱狂的なシャネルファンを生み出す所以かもしれません。

Dresssir®︎という立場において、一着の背後にあるこうした歴史の文脈は、可能な範囲でクライアントにお伝えするようにしています。物語を纏うことも素敵ですよね。装いは物語の器。半世紀以上前に世を去った創業者の人生を、いまもなぞり続けるメゾンが、それを証明しています。