2009/02/07

SHUZO's report。


30’sスタイルの掲示板でエネルギー解放させていた、SHUZO氏がまた大解放レポートを携帯経由にて送ってくれました。ケン青木氏と銀座で一緒に写っている写真探したんですが、ちょっと見つからず、近々探します。以下、貼り付け。

『オーバーコート』


今年の冬はなかなか寒いですね。僕自身、従来の冬装備では今回、耐えられなかったやもしれません。(大げさですか(^∀^)寒さに弱いもんで)が、しかし!前回の冬から今冬にかけて鉄壁のオーバーコートを二着購入したためものすごく快適です。鉄壁というのは寒さを通さないという意味でもありますがもう一つ、自分が好きな『1930年代周辺という時代のスタイル』に一番似つかわしいコートを手に入れることが出来た、という喜びによる心の安定をも表しています(^_^)。

まず手に入れたのは30年代のフランス製のチェスターフィールドコート。形はダブルブレスト、色は黒に近いチャコールグレー。ラペルとカラーの間の隙間は当時よく見られた『すこし開いた』仕様。ラペル幅はやはりこの時代らしく非常に幅広なボールドスタイル。(余談ですが両脇のフラップポケットの中はカラシ色のフェルト状の素材となっております。チャコールグレーのコートのポケットの中身が何故に辛子色?(^∀^))内側ポケット周辺はパイピング仕立てのお台場仕様となっており、コート背面の美しいパターンやカラーの裏に仕付けられた微細なステッチとも相俟って『もしかしたら当時のカスタム(オーダーメイド)かも』など想起させられます。

もともとチェスターフィールドコートはシングルのピークトラペルを希望していたんですが、このコートをお店で見た時の存在感、チャコールグレーのストイックさ、風を全く通さない肉厚のウール、脇からフラップポケットに至るウエストシェイプのRの美しさ、立体感にやられてしまいました。それに加え、フランス製ということで少し値段がリーズナブルになっていたのも追い風になりました。(別にイギリスでもフランスでも仕立ての差は変わらないとは思いますが、何せ購入したそのお店は基本、仕入れる衣類はmade in Englandであることを矜持としているので、どこ製であるかよりは時代性やシルエットを重んずる僕にはまさに渡りに船のありがたい価格でありました。)

ちなみに豆知識。賢明な皆様はご存知かと思われますが英国ではジャケットをコート、ベストをウエストコート、パンツをトラウザースと呼びます(ジャケット、ベスト、パンツはアメリカ語ですね(^∀^))という話を一般の人に言うと、『じゃあコート(外套)はどういうの』と大抵の人はおっしゃいます。答えはオーバーコート。(ちなみにビクトリア朝時代はジャケットとコートの定義の境界が曖昧であったため、《なんせ当時はウォーキングフロックスーツなどという外套丈の上衣を頂く三つ揃いも存在したくらいですので》コート、オーバーコートを総称してコートと言ったのかもしれません)そういえば私の父母のように昭和初期を生きた戦中派は外套を“オーバー”と呼んでいましたっけ。

その後80年代DCブランドの台頭で外套をコートと呼ぶようになり、『オーバーなんて、ぷぷ。(どうせいい加減な和製英語でしょ)』と軽く嘲笑していたのですが、今となってみれば嘲笑されるべきは自分だったなあ…と思います。オーバーとはオーバーコートの略称でちゃんとした所以(ゆえん)のあるものだったんですね。さて二着目ですが、こちらはイギリス製40年代のアルスターコートです。このアルスターコート、僕的には最も30年代らしいオーバーコートと思ってます。

服飾辞典を紐解くと、『アルスターコート…オーバーコートの典型。1910年代頃から大流行し1950年に廃れた。トレンチコートの原型でもある』といった記述が…まさに30年代を駆け抜けたオーバーコートではないですか(^∀^)要するにアルスターカラーと呼ばれる襟(ピーコートにも見られる、襟先が下がって行くあのデザインのカラーです。)を持ったダブルブレストの外套で、シルエットは肩先からストンと落ちるボックスシルエットなのですが、ウエスト部分にはベルトが付いており、そのベルトをギュッと締めて胸の部分にドレープを入れウエストシェイプさせることにより抜群にエレガントな形、雰囲気を作り出せるコートであります。(このベルトを締めた時に出来る襞<ひだ>をヒントにした当時の名匠、フレデリック・ショルテにより背広の胸部分に“フロントダーツ”が取られるようになり、20年代のイングリッシュドレープスーツ完成へと繋がったのです。)

このアルスターコートの素材をウールから撥水加工を施したコットンギャバジンに仕様変更し、戦争仕様に手榴弾を下げるDリングや雨風を避けるショルダーヨーク、チンストラップ、銃剣を固定するエポーレット(肩章)などを付け足したのがトレンチコート(イギリス陸軍の塹壕戦用コート。映画『カサブランカ』のボガードでお馴染みですね。)であります。ちなみにアルスターコートのウエスト部分のベルトを省略し、背中のウエストバンドに留めたデザインのものを簡略型の『アルスターレット(アルスターもどき…みたいな(^_^))』と呼びます。

まあクラシックな映画で活躍するコートと言えばトレンチコートが思い起こされるでしょうが、そのトレンチコートを究極にシンプルにしたようなその簡素な美しさ、武骨な味わい…やはり僕としてはアルスターコートの方に軍配を上げてしまいます。僕が今回出会ったのは先述したチェスターフィールドコートと同じくらい肉厚のウールメルトン地(所謂“羅紗”ってやつですね。)で、紺色と言うにはもう少し明るく藤色がかった色味であります。現在こういうオーバーコートはブルー系ならおそらく地味な濃紺くらいしか製作されないのでは?

と思われ、それだけでも『ああ…過日は男物のオーバーコートでさえこんな洒落た色味が使われてたのだなあ』などと勝手に想いを馳せてしまいます(^∀^)狭めの肩幅に対しカラーとラペルはやはりかなり幅広く、まるで当時のドイツ、ナチスの将校が着用した外套のごとき極端なカッティングにシビレます。これもまた着用して人間の体の厚みが入るとカラーとラペルの間の刻み(ゴージ)が少し開く仕様になっており、なかなか表情のある佇まいになっております。裏地には当時のイギリスのユーティリティマーク『CC41』が縫い付けてあり、このコートが1938年~40年代(実際には50年代までこのマークの製品はあったらしいですが)のいつ頃かに製作されたことを物語ります。(このユーティリティマーク、第二次大戦当時、なるべく貧富の差を緩和するために設けられたチケットの配給システムで、当時このCC41マークを付けられたスーツから日用品、家具など色々なものをチケットで買えたとか。)

そして今回購入したコート、個人的にはベルトの取り付け位置が若干高めなのがさらにポイントが高いです。この処理によって、抜群に今日的なシルエットになっております。さて、また余談ですが、こういったベルト付きのオーバーコートを現代でも多数の人が着ていますが、そのベルトをウエストに巻かずに背中の方で結んでいる人が圧倒的に多いのには閉口してしまいます。トレンチコートなどは、背中のベルトループを通されたベルトがそのまま脇ポケットに入っている方も多く見受けられます。(当然シルエットはステンカラーコートのようにゆる~い感じになっております…)

これ、実は日本の販売員のセールストークの常套句にもなっているからしょうがない部分もあります。曰く『背中で結んだっていいんですよ』『そのままポケットに入れてしまってもいいんです』僕も20年以上前、初めてベルト付きのコートを購入した際はそう説明されましたから(^_^;)。しかし最近、デパートかどこかで販売員が客に同じ説明をしているのをそばで聞いて『20年(いや、多分それ以上)変わってないんだなあ。』と戦慄した覚えが(大げさですか(^∀^))。たしかに間違いではないんです。

着こなし方は自由ですから『それもアリ』という視点なら許せると思います。しかし販売員がそれを連呼するあまり日本では『ベルトを締めなくても当たり前』『それが正統』になっているキライがあるのはなかなか許しがたいものがあります。ベルト付きのオーバーコートというのは、基本ベルトをきちんと締める。それによって発生するウエストシェイプやドレープ(襞)の美しさを見越して設計、製作しているのだという代々の作り手の想いが現代の日本ではあまりにもないがしろにされている気がするのです。

しかし、大変少数派ではあるんですが最近ちゃんとベルトを締めている若者を見かけましたし、年配の男性でもトレンチコートのベルトをしっかりウエストに巻いてハンフリー・ボガードのように脇でキュッと結んだスタイルの方とすれ違い、『日本もそうそう絶望したもんでもないよな…』などとひとりごちてしまいました。さて僕自身1930′sのスーツスタイルに合わせる事を第一義として購入したこのアルスターコート、肩幅がそれなりに狭く、ウエスト位置が高いこともあって、カジュアルな着こなしにもかなりイケる事が判明しました(^∀^)。


現在はラフな厚手のシャツにカーディガン、細目のモーターサイクルパンツにロングブーツ、ニット帽をかぶりアルスターコートを羽織り、ストールをアフガン巻きにしてメッセンジャーバッグを斜め掛けという若干クラシカルユーロワーク的な出で立ちが最強の防寒着になっております。(もちろんベルトはしっかり締めてますよ(^∀^)カジュアルであっても…いや、カジュアルであるからこそ尚の事、です。)もう暖かいのなんの!やはり形的にもピーコートと同じ衿型なのでワーク的な斜め掛けも似合うんですね。しかもロングコートという事で、ショート丈が流行りの昨今にあってなかなか本気仕様な雰囲気を醸し出してくれております。

今ではこのアルスターコート、カジュアルな時の方がヘビロテになってしまいました。本当に買って良かったです。さてそうなると次の課題はチェスターフィールドコートです。ドレスなイメージの30′s系のスーツに合わせるには最強なんですが、それだけでは僕の日常生活であまりにも登板数が少なくなりすぎます。果たしてカジュアルな服装は合うのか?どこまでが許されるのか?これは深刻な課題であります(^_^;)何か良いアイデアは無いですかねぇ…

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