2020/03/16

マシンメイドはスーツ的、オーダーメイドはドレス的



たとえば、レディスのドレスを中心に考えたとき、機械縫製:マシンメイド(以下マシン)も、手縫い縫製:ハンドメイド(以下ハンド)もそれぞれ魅力の方向性がありますし、たのしい創造性をたっぷり持っています。ここでマシンがスーツ的であり、ハンドがドレス的だ、ということの説明をしたいと思います。長いですし、かえってわからなくなる可能性もありますよ笑


さて、英国やイタリアの紳士物老舗のしっかりした上質な生地を使って、マシンメイドでシンプルなワンピースをお仕立てする、これは紳士がスーツをお仕立てすることに限りなく似ています。デザインと型、そしておおよそ使用される生地のテイストが決まっていて、歴史的に(スーツという共同規範幻想をキープしたまま)そのフォームを大切に受け継ぎながら、自身に似合うフィッティングと生地のセレクトをその範囲の中で選び、試し、探究していく。


これは英国のヴィクトリア期の後半、1900年ごろフロックコートの尻尾をちょきんと切って以降ほぼデザインが変わっていない 『紳士スーツというほぼ変わらない型』 であり、深みのある紳士スーツの装いづくりに似ています。


当然、スーツの歴史で言う創造性とは、視てすぐわかるへんてこりんな奇矯なデザインという類のものではありません。苦みばしった紳士の感性によって陶冶されてきた繊細なニュアンス、微差の世界です。


とくに紳士の場合ですが、オフィシャルなスーツに合わせるための白シャツのボタンがアクセントづくりために黒を選ぶ、とか、それはどんな優れた職人であっても、必要最低限のセンスを持っていないという点において、オーセンティックな装い全体の方針を立てる能力が無いことを意味します。話がそれました。


さて、婦人物のマシンメイドのワンピースに関してですが、一般的なオフィシャルな場面での着用と考えたとき、デコルテがやや狭くて、基本ボートネック寄りで露出が少ないもの、スカート丈は長め、だけど、裾に向かって蹴廻しがすぼまって、長袖というスタイルが打ち出しているものです。あまり体の線をくっきり出しすぎない、生地が揺れる動きの中で体の線が現われる、というスタイルです。


物を長いこと愛用し続ける英国の伝統から、上質な生地をたっぷり使って、余計なテンションをかけずに、生地をドレープ(揺ら揺ら)させて、シルエットをシュッと見せる、これこそが、ものを大切にする堅牢性と美意識が交わる結節点であり、歴史的な工夫と文化的な知恵がつくりだす意匠であり紳士・婦人に共通する優れた美意識です。


生地をできるだけたっぷり使っていることで、立つ、座る、歩く、などの動作のたびに、体のラインが現われたり生地のドレープに隠れたり、の繰り返しの残像が印象を作り出します。時間の流れとともに、そのひとの印象が動作を通して浮かび上がります。

ゆとり幅がなくて、全体がピタピタし過ぎて張り付いていると、"優雅な時間軸”がそこに無い着こなし、時間軸をゼロにしたかのような静止画像のようなシルエットになってしまいます。映画的じゃなくて、静止画像的という感じです。ざっくり言うと全体の印象がひらっぺったく、安くなります。


納期的にも、マシン(機械縫製)の場合は、1ヶ月前後ですので、自由にアイディアを試しやすいという強みがあります。これは、自身のキャラクターづくりの過程で、鋭く閃く、あるいは湧き上がってくる(本来の装いの醍醐味)装いのアイディア全体を一気に創りあげて全体観を持てる、自分の世界観を一気に持てる、ということを意味します。


置いてあるものを買うショッピングですと、バラバラにモノ中心にコレクション的に収集していくので、全体像がつくりにくい、ということがあります。たとえ最初に自分の全体イメージがあるとしても、それを見つけるために、ひたすら登場を待って、出会いに賭けるわけですね。


自分と同じセンスの、狙いのデザイナーが存在して、そのひとが、そのシーズン、自分に出せる可能な予算で一定のアイテムを作ってくれて、さらに自分がそれを見つけだす偶然が起こり、売り切れずに残っていてそれを手にすることができる、という確率に賭けるわけですね、、、本音でいえば、それは難しいと思います。

そこにおいて、人はじょじょにどうなっていくか?どういう方向に進んでいくか(誘導されていくか)というと、精神的に『受身』になる方向に進むわけです。

意志的な自分に合ったスタイルを諦めて、季節ごとに変わっていく、手に入りやすい、一斉に同じようなアイテムが出現してくる(咲く)『ファッションblossom』に自分を寄せるように再設定しなおします。そうすると、本当にほしいものを探して苦労するより、みんなと一緒の手に入れやすい、ほぼ共同購入に近い商品を購入することができます。


一方、仮縫い付きのハンドメイドはどうでしょうか?こちらは、ひとことで、やれることが全て、といえるほど広い範囲に渡っています。ゼロ⇒1です。そもそもですが、オートクチュールというと、協会員だけが謳えるという考え方をレスペクトしてぼくらは、自分たちのことをオーダーメイドという和製英語で謳っています。(以前はオートクチュールと言っていました)基本どちらでもいい、依頼人候補者にとってああ、あれか、とわかりやすければどちらでもいい、と考えています。使われなければ廃れていくとも思っていますが。。。


実際のオートクチュールは、そのシーズンごとに型が決まっているものを、マヌカンが着て、プライベートな規模のショーを催して、注文を受けつけ、それをその注文者のサイズで仮縫いしてつくる、というものです。


そう考えると、ゼロ⇒1で新しいパターン、デザインを描き起こすということは、猛烈に贅沢な行為といえます。これを、コクシネルではさりげなく日常的に行なっています。


それは現在の小さな、てんとう虫チームとしての“小さな”規模感がなせる技でもあり、できるかぎりこの小規模のまま、今のまま理解者、共感者に助けられながら、深堀り、深化、追究していきたいと思っています。


こちらのオーダーメイドにおいては、デコルテのシェイプ、露出分量、肩からウエストのライン、ゆとり量、ウエストから蹴廻しまでのシェイプなどすべてが完全に制御可能です。しかし、自由に何でもできるからといって、一番最初の方針づくりであまりにもだれでも陥り:おちいり、そうな『個性のトラップ:個性という名の罠』にかかってはいけません。


こちらも、冷静に基本線を極端に逸脱しないように、そのほうが長い目で見て賢い選択だ、ということをアドヴァイスするようにしています。むしろ、何でも出来るオーダーメイドだからこそ、シンプルにミニマルに考えることがまた一歩、自身の最高のシルエットを究めることになります。ラインづくりに淡々と、営々と、容赦なく歩を進めるけれども、徹底的に力んでいないことが大切です。みてすぐわかるデザインに対しては恬淡:てんたん としていただきたいのです。


流れるような美しいカッティング、フッと妖精が息を吹き込んだような膨らんだパフ、涼風が吹きぬけたように揺らめくドレープ、優雅に身体の線に沿ってみたり、離れてみたりするブラウジング、、、。オーダーメイドを徹底的に自分のための特別の魔法にして、シルエット全体を淡い魅力でつつむ:blooming、纏う、そんな特別のドレスであるように、と願っています。

冒頭に戻ってみると、マシンはスーツ的であり、ハンドはドレス的です。スーツは、自由さ不自由さの両方の要素があるからこその魅力です。一定のフォームがあるからこその、隠せない個性の表出が起こります。

控え目であればあるほどセクシーでもあるのがこの世界です。それは精神と肉体の両面のセンスがスーツの印象をつくるからです。肉体や精神の自由さ不自由さ、露出と隠蔽の両方があるからこその魅力といえます。


一方、ハンドメイドはドレス的だ、というのは、より解放的な自由さにその魅力があるからです。純然たる自己の追究の先にある世界観です。アイコンとかシグニチャーとか自由奔放に、徹底的に自分のために、たとえ若干の社会性を加味する必要があるとしても、甘美な自己探求といえます。


甘美、というのはオーダーメイドをあらわす、特徴的な形容詞です。繰り返しになりますがマシンは禁欲的、しかし、だからこその余韻、です。どちらも、きわめてエモーショナルです。ですからわれわれコクシネル・チームは飽きることがありません。この本質を感覚的に理解した上で、存分にそれぞれの世界観、情感、ときに詩情を愉しんでいただきたいです。


離見の見というか、3カメ目線というか、文楽で自分という史上最高に興味の尽きない人形を操るように、御自身の舞台をお気に入りの設定でちょっとスリリングに愉しんでいただきたいのです。



2019/11/11

金澤アトリエショー  こころを見つめるひととき



先日の金澤でのアトリエショー(トランクショーのかわりにこう呼びます)の様子を印象と感覚で製作メモがわりに書きます。全体の印象を3人の目で確認しながら、他人目線から見た全体、ドレープ(生地の揺らめき)やブラウジング(優雅にふくらみを持つこと)をよりよきものに改善させます。


ひとそれぞれが、宝物のように持っている黄金率を見出します。特に背丈の位置(くびれの位置)やバスト・ウエスト・ヒップの位置がきれいにチューニングされていて、デザインの濃度(クラシックを再現するモダンではデザイン過多が多く見られます)纏う方がそもそも持っておられる、うつくしさを決して邪魔してでしゃばってはいけません。



装う方のシチュエーションも大切に考えています。そして確信犯的に挑戦もします。たとえば、アクティブなハンサムウーマンのためにビジネス・スーツとドレスの中間の上のアイテムです。慎重に考えつつも大胆に挑戦します。肩の存在感がしっかりありつつ、80年代的なビッグサイズではなく、毛廻しが絞られた丈が長めのスカート。これを、最上級の400グラムもあるヘビーオンスのキャメル・ベージュで作ってみました。独自の艶、きわめて英国紳士的な生地をハンサムウーマンに見立てます。


オーダーメイド(そもそも和製英語のこの言葉で統一することにしました)仕様での仮縫いで数字にできない微差、美差を追究します。とても、精緻な作業です。この絶滅危惧種的な手の仕事が今後、絶滅しないためには、どのような生存戦略があるのでしょう。考えどころ、工夫しがいがあるところです。黄金率によって、ビジネスもプライベートも精度と純度を上げて、人生全体を刺激から深い充足感へと展開させることができると信じています。



フランネル素材は、そもそもアウトドア的、カントリー的、つまりスポーツの世界観なのですが、その素材のスリークな風合からラウンジ的な世界観で纏うことができます。そもそも、こうあるべき、という自分なりの基礎を学んだ後は、自由な見立てからその佇まいと実用性を考えて製作することができます。メンズとレディスの横断的な知識のシェアがそれを可能にします。


色と素材の無限のアプローチは愉しみのひとつです。自分の装いを企画する中で、色と素材についての知識と感覚が育ちます。オーダーメイドの習慣によって、美的感覚が感受性が涵養され、以前は美術館で観た名画の数々も、違った魅力として迫ってくるということがあります。真剣に自分ごととして色を選ぶ、これは過去の絵画の巨匠たちもやってきたことだからです。この内側から見た風景は、体験したことのあるひとでないと味わえません。






さすがに、たびたびの金澤ツアーで、それぞれの街の愉しみのコツをわかってきました。朝のインスピレーションに溢れたひととき、ゆっくり脳みそと感受性を解き放ち、今日の仕事に想いを馳せる、しあわせなひとときです。


オーダーメイドの場面で、この共生地(おなじ色)でさまざまにアイテムが展開していくこと、この『展開系』という世界観は、注文服の醍醐味です。マフ、ストール、アスコットタイ、ポケットチーフ、ポーチ、クラッチバッグ、、、、、。基本フレームから、さまざまなものに展開していきます。マフのあしらい方ひとつとっても、それぞれの絵心で自分にとって魅力のある立体を造形することができます。


丁寧な対話のひととき、深い呼吸をしてゆっくりマイペースで感じて、丁寧に考えていただき、刺激をもとめるショッピングとはひと味ちがった時の流を感じていただきます。


御自身をしずかに見つめる本質的なひとときであると同時に、ふっと力の抜けた余白の時間でもあり、優雅な余情を愉しむ時間でもあり、御自身が他人に与える余韻を調合する秘密のひとときでもあります。



謙虚でありながら御自身の魅力や価値をすなおに愉しんでおられる、森の中の静かなサンクチュアリに咲いている、きれいな花のような方、和の装いも洋の装いもどちらも端正にあしらわれます。つくづく着手に憧れている製作側でした。



金澤には、すてきなカフェもたくさんありますね。おいしいコーヒーで一服しにどこに行こうか迷ってしまいます。隙あらば、一服したいコクシネルクルーでした。くつろいだときに、のびやかなアイディアが浮かびます。込み入った修正点・改善点も浮かんできて対話に落とし込むので、やってることはミーティングなのですが、、、。プロセスが喫茶で成果物が具体的な企画デザインというのが理想です。


鞄も重要な世界観づくりのひとつです。旅、1930~40ごろの鉄道の旅、プルマン車輌での旅、そんな夢想のもとに、多くのインスピレーションと成果物を形に変えます。鉄道のスピード(新幹線でないもの)は、現代ではむしろ風土を適正なスピードとテンポで味わうための優雅なアクティビティといえます。


仮縫いの素材はシーチングといいます。しばしば、そのエクリュ色の素材感がそのまま夏物の印象になって、淡いベージュ色を注文されることも過去にありました。実際につくってみて初めてわかることもたくさんあります。むしろ思考の限界、有限性を謙虚に認識して、概論⇒各論というふうに絞り込んで、御自身のサイズを究極の黄金率に追い込んで行くのが合理的で、理に適っています。


2019年の秋冬のサンプルのメンバーたちはずっとその期間かわりません。飽きることもありません。紳士の生地や、こんな生地でいままでワンピースをつくることは無かった、、、というような挑戦をしています。耐久性にすぐれ、ファンシーではなく苦みばしった英国紳士の美学をもつ生地たち。。。無限に挑戦のネタがあります。どれに御自身がはまるのか、それはお召しいただいてからのお楽しみだと思います。意外な生地が、意外な効果と魅力をもたらします、ということだけはいえます。






往年のハリウッド女優のようなエレガンスを21世紀にもってくるための未来的な工夫をこらします。とはいっても、昔のままそのままではいけないと服飾評論家的な方々は良く言われますが、ただ昔のまま、というのも最高です。素直にその方に最高に似合うものをまっすぐ追究することこそ、現代ではユニークなオンリーワンなのだと思います。あまり、流行からアイディアを借りすぎてアレンジしすぎない、その方の魅力をじゃませず、素材の魅力をできるだけじゃましない、まずは徹底的にそこを意識します。









花は人間が敵わない魅力があります。名前もなく(後から勝手に人間が付けただけ)、淡々とただきれいな輪郭を持って生命をまっとうしています。うつくしく咲いている、というのも人間が勝手に感じているだけですが、人間というか動物として本能的に魅力を感じてしまいます。そのような魅力の発動のし方をしたいものだと、常々花を飾りながら思っています。お誕生日の方のために寄った花やで一輪魅かれた、ものを購入しました。ピカソ!というらしいです。フェルメールという品種とひじょうに似ているので区別はぼくにはつきません。ピカソといっしょにちょっとファニーでモンドリアンのモービルのようなシルエットのユーカリ(このユーカリはコアラは食べられないらしい)、そしてむかしのガラス瓶のようなグリーンの花瓶を揃えて、会場に飾ってみました。





ちょっと時間が合って、おやつタイムにお気に入りのカフェへ。こちらの御主人のセンスが滲み出るかずかずの逸品たち。こちらの御主人の制服があまりにステキだったので、訊ねて、フランスの制服メーカーのカタログを譲っていただいたことがあります。白生地ベースに、シルバーで名前が刺繍されているこれまたアシメトリーな打ち合いのマオカラー風の制服で、この写真を撮らなかったのを後悔しています笑








まあ、センス抜群ですね。こちらのカフェの所蔵品、展示品でした。そもそもスポーツってどういう世界観?って答えがすべてここに書いてある、そんな貴重な一冊でした。


みなさん、御自身のタイミングとペースで製作されています。丁寧に感じ、考え、ほんとうに満足できる御自身の1着を追究しています。そもそも論でいえば、すこぶる真っ当な行為です。御自身にとってのその時の最終解答を手に入れられれば、そこから心おきなく、その装いと一緒に御自身が主役の人生の映画を創り出せます。すばらしい名画にはすばらしい衣装担当が必要ですので笑


世界観は、たったひとつのアイテムから展開していきます。妄想族、夢想家の創り手は、もう上の2つの物体があれば、意識はヨーロッパの優雅な列車の旅に飛びます。


まだスタートしたばかりの、コクシネルの創業期にご贔屓くださる方々、特別な思いとともにずっと忘れません。最高の仲間、そして共犯者!?でいつづけていただきたいと願っています。こちらも、時の流れとともに、どんどん精度が増して御自身のアイコン、シグニチャーが出来ていく過程をともに楽しませていただきます。


その出自を英国スタイルの紳士洋装文化に根ざしているので、インテリアにはブレイシズやボウタイ、アスコットタイ、、、、紳士の空気感も加えています。


鞄職人である、ケイイチロウ氏と木場が共同企画しているケイイチロウ・エクリュの鞄は、スーツやドレス、旅にあわせる鞄というコンセプトで今後展開していきます。商品にたいする厳しい自己評価を、感じるところ思うところを今後注文されるご贔屓の方々にはシェアしています。暮らしの手帳的な厳しい誠実な商品評価を持つ、プロデューサーの小西さんの忌憚ない意見をシェアする場面です。




先生業をされておられる、マキさん。このレディスのダレスを教壇まで持って上がり、それをおもむろに開いてテキストやプリントを出す、、、そんなちょっとノスタルジックなシーンをロマンシングされていて、作り手側のぼくらがその場面にうっとりと浸ってしまいました。教師の方々がすてきに輝くこと、これは紳士部門のエドワードエクリュの願いでもありました。エドワードには教師、軍人、警察官、学生、の特別割引枠があります。


トータル的に、コクシネルの金澤アトリエショーをプロデュースしているプロデューサーでもある小西さん。木目細かな、そして並々ならぬ丁寧な準備と気配りによって、われわれデザイン製作チームもやるべきことに没頭することができます。ありがとうございます。(この装いはエドワードエクリュの敢えてメンズ仕様)

コミュニケーションを重要な柱として新しい注文服の世界観をこれから創りあげてまいります。東京、金澤、京都、各地点のインディペンデントな魅力をもつひとびととつながり始めて、新しい世界観が展開中です。関係各位、金澤のすばらしい仲間たちとご贔屓筋、船出直後の小さなてんとう虫への愛にあふれたやりとり、心よりお礼申し上げます!