2019/01/21

便箋と封筒が入るバック『Lyon』






ケイイチロウ氏と食事したり、一杯飲みにいったり、旅をする中で、『 〇〇用の、一生の相棒になるような鞄を欲しい、いくらさがしても世の中に売ってないから 』という作品が、対話を通して形になってきます。旅をする中で、仕事をする中で、自分自身が本当に気に入っている鞄を持っていることが、これほど気分いいものか、これほどまでに心理的に良い影響・作用を与えるものだったのか!と強烈に実感します。安いとはいえない金額を払い、気に入らない部分に目をつぶってブランドのバッグを買う、という苦痛に戻ることは、もはや一生、二度とできません。

『封筒や便箋、そしてペンをいれる程度の軽やかなバック』が20年くらいずっと欲しかったのでした。軽やかなもの、でも、素材が上質で落ち着いていて、ブランド名がフロント(でも横にもまったく必要ないです)にドヤと鎮座ましましていないもの。金具は、複雑な形状や、手の込んだいろんなしつらえではなく、昔からある真鍮のシンプルで奥ゆかしい『 用の美 』の佇まいを持ったもの。


完成したとの知らせを受け、夕暮れ時の神楽坂、キャナルカフェで待ち合わせしました。マジックアワーの猛烈にうつくしいひと時、屋内のテラス席にて納品の儀式を行ないました。想像以上にうつくしい色と佇まいのバックでした。ゴート、山羊革のスウェード仕様です。大きさも完璧で、大きすぎず、小さすぎず、でも『小さ目』です。大きいより小さい、の美意識が本質的に大事です。さくっと外出する気分に合うものです。

取っ手のしつらえが美しいです。曲面がアウトラインを描き、ゆるやかに細くなり、ゆるやかに太くなり、必要充分を満たす用の美を描いています。そして、取っ手の3次元で掌(てのひら)にフィットする不思議すぎる感触。ここが疲れない鞄のポイントであり、ケイイチロウ氏の鞄が世界一だと感じる理由の一つでもあります。フラットの層を積み重ねたハンドルではありません。地図で言う所の、山脈の等高線のようなパターンで出来上がっています。すばらしいですね。



夕暮れがこくこくと変化するのにともなって、一緒に色の見え方が変わっていきます。読書用の本か手紙書きセットを入れてちょうどいい大きさ。『手紙用の鞄』Sac de lettres です。便箋と封筒とペンくらいで中身が一杯になる、という優雅なコンセプトが贅沢です。おじいちゃんになるころには、そんな身軽な身分になっていたいものです。

今年、いまだに終わらない年賀状書きを、日常の習慣に近いレベルで書き続けているうちに、年賀ハイになっていて、手紙というもの、葉書というもの、郵便局というものがマイブームになりました。年賀状づくりで、面白さにハマったっぽいです。さっそく、このバックに葉書をいくつかいれて、カフェで近況などを友人、知人、ご贔屓筋にお送りしようと楽しみに思っています。


ひさびさのキャナルカフェでした。神楽坂は、やはりホーム感があります。ドレッサーのボーイズ君(いまや、全員ジェンツたち)が運命の脚本どおりなのか、今年2019年はほぼ全員が同じ場所にあつまり、1、2の共通のプロジェクトを進める運命にあるようでうれしく思います。みなが原点回帰なのでしょう。

ぼく自身も、折り返し地点なので、昔やっていたことに、どんどん戻っていきたい、と考えています。仲間が増えている状態で、同じことに戻る、すばらしく魅力的に思えます。昔は、急いで時間制限の中でやっていたことを、もう一度じっくり丁寧にできる、そして昔より上手にできる。味わえるということは愉しいです。


金澤の『印象美プロデューサー』ワードローブの小西さんがプロデュースしてくださった、エドワードの手紙のしつらえで、使われる水引きの文香(ふみこう)です。室内の香りのプロデュースもそうですが、6感まで全部を贅沢に満たす、そんな印象美の力をエドワードエクリュも重要なエッセンスにさせていただいております。美しい日本の街、その魅力、そして、最重要事項として独自のコミュニケーションの妙味を存分にエドワードエクリュのエッセンスにさせていただきたい、と考えています。


サック・ドゥ・レートル、手紙の鞄、は、コードネームが Lyon リヨンとなります。これは、世界を旅しながら美意識を磨いているケイイチロウ氏が、自分の作品にはすべて世界の街の名前をつけているからです。神楽坂の運河からはるかリヨンを想う、という感じでしょうか。しかし、ここの夕暮れ時の外テラスでのお酒はほんと美味しいですね。空気と余白空間を愛する人間にとって(それから鉄人たちにも、運河沿いを走る総武線と中央線が)最高のオープンテラスです。こちらで、ああでもない、こうでもない、と自分自身の考えをまとめるのも最高の場所といえます。


先日、北陸の金澤、丹後の与謝野、南洋のシンガポールとともに旅したケイイチロウ氏、ケイイチロウ・エクリュというコードネームで共同制作しているシリーズを10点連続して作りだす計画です。現在5まで来ました。おじいちゃんになっても、ともに世界を旅していることでしょう。次回はシンガポールはSixsenses Hotel に泊まるのを楽しみにしております。次の作品は両手がフリーで使える、斜め掛けバッグです。


一生をともにする道具、用途に充分に応えてくれる道具、それは長年使っていくうちに、道具側も使い手もともに歩み寄って名人級の使い勝手の境地までいくはずです。これが、道具がどんどん仕様が変わってしまったり、使い方もお節介なくらい勝手に変えて、それも使い手に便利に変わるのではなく、道具側のメーカーに紐ずけられた利益共有者にとって有利になるように、どんどん複雑化していくようでは、それはもはや道具ではありません。道具の使い方から意識が離れないようなそんな道具は二流以下の道具、無意識に使えてこそ道具の本質です。

誠実にまっとうに、使い手に有利なようなものをつくる、使い手の要望に応える、問いに答えるようなもの、できれば、最終解答のようなものが欲しい。そう思い続けてきました。そして、それは理解ある寛容なご贔屓筋の存在のおかげで、前向きな研究開発ができています。若いひとたちにいっているように、理解ある顧客とお付き合いすることがサバイバル要諦です。それは、上からのえらそうな排他的な視点ではなく、マッチング、相性のわきまえの話です。大手百貨店スタイルのミスが無いこと、殿様扱いしてもらうこと(身を削ってもらうと嬉しいwin-loseマインド)のサービスを求めるひとに、個人商店は向いていません。


そして自分が欲しいと思うものは、頼んで作る、という時代に一気に入ったのかもしれません。贅沢なもの、ドヤと威張れるものが欲しい、既成でもたまたま好みが合ってる、という場合は市販のものを購入すれば幸せです。ただ、妥協して高いお金を出して購入というのは、もう時代遅れのような気がします。そろそろ職人と直接つながることもできてきていますし、その仕様やデザインや素材や製作をしっかり成立させれば、あたらしい意識の贅沢、を追及できます。

しかし、もともとはそれがモノづくりの起源ですから、それを贅沢、と呼んでしまうのも、そもそも論でいうとおかしな話なのです。時代がまともな方向に、贅沢を経由して戻ろうとしているのですね。フツーのありがたみが分かるまでに、ややこしい手続きやプロセス、一定の苦しみが必要なのは、戦争ばかりする人間種がほかの動物と違う一番困ったところです。


ミスで到着したポテトフライを目の前にして、食欲のブレーキが効かず喜んで前向きにそのままオーダーを受け入れる2人でした。夕暮れのあとは、照明のデコレーションでロマンティックな演出をされます。水辺はいいですね。



お気に入り、My favorite Things ささやかな、手元の小さな小宇宙。ぜんぶ、気に入ったモノたちに囲まれていたいですね。ご機嫌なカフェで、お気に入りの友や知人にありがとうね、のお手紙を書く。なんたる至福のひととき。きっとビールが手元にありますがね。まあご機嫌のまま感謝状書くってのが、まさに良いバイブレーションを送り届ける秘訣ではないでしょうかね。毎日そんな日でありたいです。


スマイソンの英文フォントは鉄板ですね、失礼、銅版でした。この文字と文字の間にゆったり余白がある感じ。麹町の東條会館のTea for two の文字も、さすがシー・ユー・チェン氏のプロデュースだけあってすばらしいです。こちらも共通して落ち着いていて上質さを感じさせるフォントです。さすが英国大使館と皇居が同時に俯瞰できる奇跡的な立地テイストです。世界の友人たちと手紙のやりとりを愉しもうとすると、その周辺知識や語学力が問われ、良い感じで勤勉にならざるをえません。


同じ色の同じゴート(山羊革)で靴も製作予定です。エドワードⅧの靴のテイストを持ち出すこともなく、白、エクリュ、ベージュ、トープ、そしてゴールド系、のグループに良く良く合うのが、この茶色は、ブラン・ファン:Brun faon 小鹿色です。鈍い灰みの茶色です。資料によると、1789年に英色名Fawn として使われているとのこと。 さてさて、新しいオリジナルの絵葉書で、誰かにお手紙書きたくなってきました!





2018/07/02

熱帯 Calling you..



テーラーVAGABOND店主の田中志幸(しこう)氏 code name “ 熱帯さん” です。熱帯さんは、つねに熱く、南のかなたから南国の香りを必要としているひとに向けてcallingしておられます。そして彼はずっと自己の理想に挑んでいます。彼自身が気分転換と研究を兼ねてエドワードにオーダーしてくれたTropical Attire 一式を持って、僕は一路沖縄へ向かいました。

熱帯さんは実はすこし暗く、しかし内側は熱く、つねに逡巡(しゅんじゅん)しています。逡巡:しゅんじゅん・あれこれためらいつつ迷っていること。。常に、情熱のかけどころをどこにしようかと、あきらかに楽しみながら、悩んでいます。

決して、沖縄の青空や海のようにわかりやすくスカッと爽快、都会に疲れたみんなカモーン!というテンションではありません。しかし、そこが相手に寄り添う熱帯さんの魅力なのかもしれません。社会には人間が作り出したせっかちな答えがありますが、世界には問いしかないと、熱帯さんは哲学的に認識しています。


今回は、VAGABONDから、徒歩30秒の地元のホテルに拠点を置いて、2泊3日のツアーでした。那覇空港に到着して、持ち込み予定だったものの個数オーヴァーで不本意ながらの預け入れ荷物が(意外と、失礼!)丁寧に扱われていることに、さすが日本だと大いに感動しながら(右の小ぶりのウィークエンダーバッグ)、空港の外に出てラインで連絡された通りに空港の外に出て、熱帯さんを発見しました。

空が高くからっと晴れ上がり、静かな海がとことん青く目の前にひろがっている、、影といえば熱帯の木蔭、トロピカル、もちろんそうでしょうが、時間限定の夏休みのように、ちょっと、はかない無常感のようなものが、詩情のようなものが、沖縄全土に漂っているように感じます。

いろいろありすぎた歴史的な背景がそこには存在するのかもしれません。強い詩情を必要とする、うつくしい物語を必要とする、こころに沁みわたる音楽を必要としている、、、そんな歴史をかかえた土地なのだろうと、感じさせられます。

白の麻の3ピースで、ジャケットを脱いだ姿で迎えにこられていました。いいですね~!これで、半ズボンだったらがっくりですからね、さあ、ワンパク小僧の笑顔で迎えてくれます。『どうもです』と、いがらっぽい第一声で迎えてくれました。白いバンの車内では、スタンダードのジャズがモノラルかステレオかわからないくらいの小さな音量で流れていました。

ガラッとした声でぼそぼそっと話します。話すというか、語るというかんじですね。そして、いつも何かの大作に挑んでいる映画監督のような風情です。かつてベトナム戦争をテーマにした名作を撮った映画監督も、きっとこの表情してたんじゃあないかな、と思ってしまいます。


熱いクセにボンヤリしている、間がある、余白がある、深く考えてそうで考えてない、なんにも考えてなさそうで考えている、でもやっぱり考えていない、そりゃ迷ってる、って言いますよ、のような時も(笑)熱帯さんは、さあてと、どの楽しさを取ろうかな、あの面白さにしようかな、この楽しさにしようかな、といつもあれこれ妄想しています、夢見ています。

ゴリッとした風情ながら、ぼんやりしている感じが、とってもいい味わい深い熱帯さんです。昨年は、文字通り(calling)10度以上の電話でのアドヴァイス、ヒアリングを通して、恐縮ながら、彼の思考が思い悩むパーソナリティにフォーカスして、VAGABOND (店名ヴァガボンド:旅人)と名付けました、名づけ親:Godfather 兼顧問となりました。そしてその責任があります。


ゆったりした、店内のカウンターの中に入った熱帯さんが、『駆けつけ一杯』、いやいやこの表現違いますね、アペロ、いえいえ、この表現も違います『カクテル(タイム)』これです、を演出してくれます。昔風のフォーマルな固苦しさ風情こそシックです。とはいっても、ユルく、ビールでもジンでもシングルモルトでもお好きなものをどうぞ、と出してくれます。

カウンター越しに、さっきまで乗ってた揺れた飛行機の話、今晩のディナーのお話、夜に繰り出すジャズライブハウスの話、ぜひ会っとくべき地元の粋な紳士の話、なんならついでに(というか東京からこられる場合はそれが目的でもあるのですが)オーダーについての話、つまり総じてザックリいうところの優雅な『テーラー談義』をダラダラし合いながら、ゆっくりリラックスしたまま採寸に入ります。


さあ、何にしますかね、えっ?ああ、洋服の話でしょ、そらぁやっぱり服の話ですよ。今回作る服の話です。だらだらいきましょう。そうそう、お客さん、なんにも知識なくていいですよ。薀蓄やトリビアいらないですから、それが美しいか、そうでないかだけです。どしんとした方針を決めましょう、方針を、まあでも飲みながらぼんやりと。

でもね、けっきょく、ふつうのものをサラッとつくりましょう、お客さん自身がゴリッと見えるために、服はサラッと作りましょうね、あれ?意味不明ですか、ははは。そんな会話が繰り広げられてる、ように思います、おそらく。


麻の白いスーツ、ただ白といってもエクリュに近い最高レベルにセンスのいい味とコクのある白がいいですね。キュンとくる白。淡いブルーのコードレーン、ただ淡いといってもちょっとヴィンテージ風にかすれた、いなたい、素朴な風情のサックス・ブルーのもの。街道沿いで終日シガー喫いながら勝負のつかないカードをどうしようもなく愉しんでるキューバのおじいさん連中が纏っているシアサッカ、そこにコーレスポンデント・シューズ。決してアダっぽすぎない、イキってない、ドヤてない、淡いタンレザーと白のバイカラーではどうですかね。。。

サファリ・ジャケット、どうですか? アジアの熱帯雨林のジャングルにも、沖縄にも似合いますしね、コルビュジェが愛用した、アルニス逸品ジャケット、フォレスティエール(森の番人)のオマージュとして、熱帯雨林の旅人シリーズどうでしょう。薮蚊用のスプレーとか、蛭にくわれた時の薬とか沢山ついたポケットに沢山入れれますね、手ぶらで。カリユシにはにあわないかな?まあどこかかつてフランス領だった砂漠を旅するにも似合いますよ、、、そらあツイードでも大いに結構でしょう。アイラ島にウィスキーの蒸留所巡り用にヘビーオンスのどしんとしたツイードの3ピースを、この熱帯の地でオーダーするのも酔狂でいいじゃあないですか。


そんな会話や、たまにどちらかの一方的なトークが炸裂したりぐずぐずしたりと、そんな中で一本のイメージがきまり、採寸を30分前後で終えて、またブレイクの一杯飲みたい方にはドリンクが供されましょうよ。アイテムが決まり、生地も決まったり決まらなかったりで、お任せしてもらったりしながら。独特の時間の流れ、テーラー談義がつづきます。例のあの逡巡をしながら、ガラッとした語り口調の声で、カットしていかれますか?と訊かれます。ハイと、お客さんは、答えましょう。


では、こちらへ、と数歩先の理髪台へと向かいます。バーで一杯やりながら、メジャリングを終えて、即バーバー・フィニッシュができる、トニックでスカッと爽やかワンストップ型のGentleman’s Finishing Barです。世界にも、いくつもないと思います。沖縄の地で、いなたい熱帯の地で、一気にカラッと仕上げていきましょう。バー談義、テーラー談義、バーバー談義と世界観がつづきます。

以下、熱帯さん談 ⇒ 
バーバーに関して、東京のホテル・オークラの理容米倉という老舗に、二十代半ばの3年半です…でっちからはじめて世界中のVIPを目の当たりにしてきました。初めてのシャンプーは宮沢喜一元首相だと記憶しております。そのおかげで施術に関しては臆することなく接客できる自分がいます。オークラでは基本の技術しかしないと言っても過言ではありません。


まさに『奥義は基本の中にあり』でした。このことはそのあとに街場や美容室を散々周りわかりました。今となって、もっと修行しておけばと後悔が残っておりますが、自分なりにここのスピリットだけでも繋いでいこうと思います。。その後、ヒロマツダ氏(現THE BARBERのオーナー)に師事。こちらの次の期間で私のbarberの基礎が築かれました。バーに関しましては19~20歳に国分寺、28~29歳に横須賀、調布、30歳で沖縄北谷で足掛け程度ですがシェーカーをふっておりました。


熱帯さんに納品したのは、股上がしっかり深目のトラウザーズ、ピン・オックスフォードの開襟シャツ、ジャケットの外に襟を出すことはおススメしません。唯一ジャケットと同系色で色が同化するときのみ悪くないかな、と感じます。一定の例外を除いて少々アダっぽ過ぎると感じ、襟出しスタイルはおススメしていません。袖は、5分袖くらいで、長め、肘あたりまでの長さです。袖の周囲はブカブカしておらず、毛まわしをタイトにしています。これは、192、30年代のクラシックテニスウェア、スポーツウェアのイメージです。そこにブレイシーズ(サスペンダー)をつけて、敢えて見せるの可としています。トラウザーズとジャケットは、同じ麻100%のイタリア生地、兄弟生地で、白とネイビーがお互いで反転した太いクラブ調のストライプ柄です。長袖シャツの場合は、より“カジュアル度”、“スポーツ度”を増すためにレジメンタルタイを挿してもいいでしょう。VAGABONDでも夏のワンアイテムとして購入いただけます。これは熱帯への旅を想定した一式です。決してクール・ビズの装いではありません、ただ、たまたまクールビズとしても使えるのかもしれませんね。。


熱帯さん含めて、エドワードに、ヒントを求めてこられる、きわめて哲学的な、あるいは特殊な、奇特な兄弟たちに、いつも言っている、応援していることは、『 徹底的に理想を追究せよ 』 一点なのですが、それは小規模零細企業、零細個人事業主の最高の権利のように認識しています。成長の足し算、失敗も引き算、そんな今時のレバレッジ系でない個人商店の存在意義は個人の世界観で振り切ることができる、理想で生ききることができる点だと思います。大いに逡巡していただきたいと思っています。逡巡の『 巡 めぐる 』は、巡礼者 Pilgrim の巡、です。店舗名 VAGABOND にいつわり無しです。


終わりのない、街紳士トークがつづきます(オーダーに関しては早々に決まっていますが)。相手がおしゃべりを求めていない場合、おしゃべりしない相手の気分に合わせるか、むしろ多めにしゃべるか、殊勝に空気を読むことでしょう。熱帯さんは、そのあたりから夜のツアーの作戦へ移行していきます。いかがされますか?と。朝から何も食べずにいたので、お腹減っています、と。ベタな沖縄の感じでいってみたいです、と伝えると、では感じのいいお店に行きましょう、ということになりました。


ってことで、VAGABONDのご近所の小料理『美せき(みせき)』へ。こちらは、姉妹4名で創業されたこの松山界隈では長く商売をやられているお店です。センスよく気の利いたお任せが次々に運ばれてきました。基本晩酌テイストの体に優しい地元の逸品でした。ほどよくお茶目で、愛嬌のある美人女将がカウンター越しにさわやかな空気を作ってくれています。そしてせっかくなら、の楽しいオリオンビールです。カリユシの装いのいい笑顔の旦那さんが飲んでおられました。軽い挨拶を交わしお互い気持ちよく飲みます。


すっきすきのお腹に地元の一品が届けられ上機嫌で向学心旺盛のため、メモが増えます。こどものような、ペン字ですが、これは酔っ払っているから手元が震えてこのような字になっているわけではなく、わたしの天然の文字筆記の実力です。


ご近所の現在・過去・未来を一杯やりながら、じょじょに知っていきます。道路の拡張工事、近所に接岸されてくる客船の話、おしゃれのお話、ハットのお話、カリユシウェアと県民の反応の話、みな興味ある話題ばかりです。エトランゼは、マジック・リアリズムの巨匠、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの小説のように、アルコールでドライブのかかった脳味噌で、各話題をつなぎ合わせ、妄想と仮説を加味しながら、勝手に自分にとってのその土地の物語を紡ぎだしはじめます。好きな、興味のある、関心のある、話だと勝手に自分のストックの話題とひもづけられながら、壮大な物語や仮説が出来上がっていきます。おいしいお酒やご飯やひとびとがいるとなおさらでしょう。



このフルーツは、ベトナムで食べた記憶があります。地元の方言、地元のお酒、食事、それらが、じわじわと風土や歴史や文化と心身が交流をはじめて、こたえられない旅の魅力を堪能します。観光局も、方言1.5倍増しキャンペーン実施中やってほしいものです。グローバル時代の残念な点は lose uniqness (その地方の独自性や)個性を失うことですが、その中に言語という文化の王様も第一位に含まれます。


このお店の、次はパフィーというカラオケ屋さんがあるらしいです。こちらも、ご姉妹でやられておられるらしいですね。次回ぜひということで、熱帯さんとともに再会を約束しました。というか、熱帯テーラーVAGABONDから徒歩1分ですから。。がっちり相互交流されたら楽しくなりますね。


腹ごしらえをした後は、国際通りから少し中に入ったところにある歌謡バー『エロス』へ。夕立にぬれた国際通りを悠然と歩く熱帯さんのホーム感が、堂に入っていました。日本の歌謡曲から洋楽への繋ぎの妙も、楽しみどころ、聴かせどころです。昭和のなつかしの名曲、MTV世代にはたまらない80年代の名曲がちらほらかかります。ぼくはちょっとレイドバックしたい気分だったので、荒井由美の『瞳をとじて』を島つながりということでリクエストしました。店内のモニターは、オードリー・ヘップバーンの『ローマの休日』が流れています。


ヘップバーンが街中で短く髪を切ってイメージチェンジしたシーンをバックにしながら、熱帯さん曰く、沖縄の名産品3つって何か知っていますか?と。熱帯さん曰く、

1 泡盛:あわもり
2 黒糖:こくとう
3 パナマ帽

とのことです。パナマ帽?ってのが、地元の素材でつくるものらしく、その話で盛り上がっていました。ぜひ復活させて、フツーにオーセンティックなパナマハットを作りたいね~ともくろんでいました。関係者で相乗りしてまとまったロットを作って夏の日の大人の装いに一役買いたいもんです。


職人さんが、ひねらずに、ふつうにサラッとスタンダードなものを作ってくださるかどうかが、われわれ好みかどうか、の境界線です。特産品のデザインは雄弁すぎるものが多いのが現実です。それもそれで、なんならたくさんつくれば良いけど、そうじゃないスタンダードなものも少なくていいからラインナップに加えてもらえばいいだけの話なんですね。洋服業界は、ピタピタが流行ればみんなピタピタ、ちょいワルが流行ればみんなちょいワル、足首見せが流行ればみんな足首見せ、といった同質化しがちな世界なので、まっとうなアイテム枠が、ガラ空きです。高密度に各アイテムが、各スタイルごとに(ビッグ卸)ビジネスにヒモ付けされてしまっているので、業界の先輩衆もみな洋服ごとき、装いごとき、されどスタイルごときに、なんと忖度してしまっている!いかがなものか、というスタイルに一切モノを申さない、という驚くべき現状です。これはつまり、それより若手の層は、いっさいその先輩がたの批判をうける必要がなくなってしまった、ということを意味します。ファッションでもモノが言えないというジョージ・オーウェル真っ青のグルメな展開を、ここはむしろ大いに喜ぶべきでしょう、そのまま好々爺として黙っててね、と。


話は横道にそれてしまいましたが、っていうか最初っからまっすぐ行く気はゼロですが、そこからわれわれは、国際通りを先ほどの歌謡バーでの名残りで、懐かしい80年代ソングを鼻歌交じりに酔っ払ったままふらふら歩いていました。そこで、三線(さんしん)を持った青年に出会いました。より、んじゃあ歌ってみようぜ!はい、島唄!どうぞ!唄ってくれて、、、もうじゅうぶん君はうまいんですから、こぶしもまわしすぎず、強弱もつけず、もういちどサラッと唄ってみてくれないか!(アンタはなにもんかい?はい酔っ払いです)といった具合に酔っ払い交流を楽しみました。


そこでこの青年が誘客していることを知り、よし、んじゃあぜひそこで飲みましょうぜ!ということでたどり着きましたのが、民謡酒場でした。ハイボールいただきながら、偉大すぎて数周目ナチュラルを通り越してドープと認定される喜納昌吉の『花・すべてのひとの心に花を』で、涙もろくチルアウトしまった状態での満場一致で踊り狂う『カチャーシー』に突入でした。とっても楽しく解放されたひとときでした。その日は、そのままホテルに戻りました。


翌朝はNaha Terraceにて、朝食をいただきました。ほぼ全員がスポーツ・ウェアの半ズボンという見慣れた風景の中での気持ちよいひとときでした。老舗サーター・アンダ・ギー(砂糖と油で揚げたお菓子)のプロモーションをしながら写真家をやっている青年との3人でしたが、だんだん周りの半ズボン、大声(手を叩き騒ぐ)族が増えてきましたので、われわれはヴィジター客でもありますものですから、風がきもちいい外テラスへと撤退いたしました。そこで、装いについて、思うところを語り合いました。こちらには、シガーバーもありました。簡単なツアーをしていただきました


熱帯さんがアテンドしてくれた朝のひとときは、すばらしい木漏れ日が入る席でした。光だけではまぶしい、陰だけでは暗い、両方ひつようですね。少し陰が多いほうが、なんとなく今の時代に合っているようにも感じます。朝ごはんは食べないことも多いですが、旅先では、脳にいっぱい糖分送り込んで、感受性が、外からの刺激に、心が揺れやすくしとくのがいいのかもしれません。




創業者たちのアーカイブ写真にはきゅんときますね。素朴なところ、新しいところ、アートなところ、音楽どころ、いろんなメリハリを熱帯さんが用意しててくれました。ちなみに、昨今のモダンで使用法がわかりにくい(考えて使わないといけないアタマの悪いデザイナーがつくった)蛇口が大嫌いな人間としては、このような旧式ハンドルか旧式のひねる蛇口が一番落ち着きますし、イライラさせられることがありません。最近、自動で止まる出しっぱなしでその場を立ち去らなければならない、モダン蛇口なんかは、それを選んだ人間に遡ってまで、いったい何を考えてるんだ!と責任追及したくなります。



クラシックなたたずまいを持った美しいホテルでした。


ビスポークでの相談だったのですが、ぼくは青年に、目のつかい方を伝授しました。青年は、瞳の真ん中と下ばかりをつかっている、極度に三白眼寄りの、目的志向型の目のつかい方をしていました。これは、にらむ目、新型のプリウスのフロントグリルの形?のような目線です。ディズニー映画に登場するヒロインも最近この眼です。これは、目的に向けて自分の視野を狭めて、意識したものだけを見よう、捕らえようとする目のつかい方です。

これでは、自分の無意識の力を使うことができません。無意識が働いてくれるための材料が目から入ってきません。今という限定された自分が、コレと思っている(思わされてしまっている)目的だけを手にすることになります。そんなような、青年にとっては、きわめて謎めいたことだけを伝え、熱帯さんの計らいで、ぼくが彼の装いを企画製作することになりました。どんな風に話が展開するかわからないものですね笑、でもそれがおもしろさです。


陶眞窯という、伝統工芸士相馬氏のアトリエ兼ショップ権カフェでした。豆皿などを購入して、でっかいシーサーを買おうかな、と迷いました。持ち帰るたいへんさを考え、もう一度、松本の自宅の庭のどこに置くかを考えて検討しようと思いました。おいしいピザでした。ほんとは、ビール行こうかと思いましたが、夜に取っておこうと我慢しました。アートや音楽は、ツアーの要素でどこかに入っているとツアー全体が生き生きしてきますね。さすが、エスコート名人の熱帯さんでした。


一服した後、熱帯さんが会わせたい粋な紳士がおられるということで、一路読谷村(よみたん)村の陶芸の窯元へ伺いました。そちらの『やむちんカフェ群青』にて、もと横濱青年の相馬氏と一服させていただきました。とても気風のいい、おじさまでいらっしゃいました。共通の友人もいたりして、楽しいひとときでした。夜は国際通りのジャズを聴きいくんだ、っとおっしゃったので、前後の文脈とあまり大げさな表現をしない相馬さんの口調からこれは、いっしょに乗っからせてもらったほうが、面白そうだということで、夜は再び合流することをお願いしました。


われわれは、そこからやっぱり海を見に行きましょうということで、ホテル日航アリビラ、ヨミタンリゾートへ向かいました。途中で、熱帯さんの第2の拠点である、『スーツ・アート・ワークス』へ寄りました。このぶっきいらぼうなしつらえは、スコットランドの都市グラスゴーにあるギャラリーのような雰囲気です。でもユルいんですね。泡盛ハイボールやりながら、世間話やるような雰囲気があります。


南洋風のドレスも扱っています。


スペンス・ブライソン社のリネン100%のカーキ色のサファリジャケットです。ピンクのシャツに合わせました。カーキ、淡いピンク、ベージュ、アイボリー、エクリュ、白、トープ、グレイ、ブルーグレイ、バーガンディ、、そのあたりの淡い中間色、フランス色は、今後もエドワードでは紳士服の基本色と考えています。


日航アリビラ・リゾート・ホテルは、近いうちにドレッサーのみんなで来たいもんだ、と思っていました。プロのフォトグラファー連れて」トロピカル・アタイアで全員集合です。写真家の方々、エドワードファミリーを撮影する時に、Tshirts 短パン的業界人スタイルで、なよなよ撮影されたくないもんだ、といつも考えています。撮影者も重要なキャストなので、エドワードチームとまったく同じくらいのテンションでいて欲しいと考えています。そして、そうじゃなきゃ、わからんだろ?とスーツのかっこいいシワとか、角度とか、と思っています。われながら勝手ですよね~。でも、ホンとにそう思います。


もっと髭を、ムスターシュを狛犬、いやシーサー級に育てていただき、地元の名物になっていただきたい、そう考えています。


さすがに、気温はそりゃあ高いですが、実は東京のほうが、ずっと逃げ場の無い熱さと感じます。高層ビルがあるし、空気が抜けないんでしょうね。いくら気温が高くても、全然余裕でした。在庫を反で買ったヴィンテージの縮緬スーツも今後は多用します。下は、今から7年前の2011年の夏の香港での写真です。この写真のさらに1,2年前から耐久実験を繰り返していました。この時、はこのスーツのままレパルス・ベイの砂浜で過ごしました。さすがに泳ぎはしませんでしたが、。その結果とても丈夫でシワになりにくい、旅行用に収納の面からもとっても優れていると結論づけました。そして、猛烈に涼しい。。生地商社各社の老舗が提案しているどの生地よりも、このウールの縮緬は涼しいということが確認できました。今度、これを丹後でシルク縮緬でつくったらさらに涼しいのではなかろうか、と仮説を立てています。


早めの夕食として、砂浜沿いのバーベキューテラスにて一服でした。男二人、少々砂浜沿いにしてはドレスアップしている二人が世界や人生や職業、テーラー、ドレッサーについて話していました。





サスペンダー姿も職業人らしい、どちらかというと、バーバー寄りのスタイルです。スタッフと世間話にも華が咲きます。時々、上空をヘリが飛びます。ハッと沖縄の歴史と現状に我に返ります。そこも含めての沖縄です。歴史も文化も、見立て次第で魅力的に見えたり、深刻に見えたり、観光資源に見えたりいろいろです。地元民の平和を祈念しつつ。。。




しずかな、沖縄。内省的な沖縄、逡巡する熱帯さん。四隅を押さえて、中味すっからかん、のままどんどん出世していく、あるいはお金を稼いでいく昨今、社会的ステージやステイタスでは永遠に答えを出さずにいて、逡巡していても結構だと思います。むしろ中味を充実させ、理想を追究することを願っています。売っている商品やサービスがガチガチなくらいに真っ直ぐであったら、その確信をお守りにして、とことん徹底的に自分らしさに集中して振り切って欲しいと思います。それによって癒されるひとびとも多いはずですし、中途半端でなく、理想を追究していて、それに多少愛嬌でもあれば、かならず応援者も現れます。地元の人、本土の人の訪問を愉しくエスコートして差し上げれば、一層味とコクのある、熱帯さんになっていくでしょう。







魅力的な地元紳士へのエスコートも愉しませていただき、熱帯さんの沖縄ツアーが終了いたしました。つくづく、もっともっと深堀りできる場所だなあと感じた次第です。熱帯さんのバーバーワークに関して、こんなコメントが多いらしいです。

『おたくに切られると、伸びるのが遅く感じるよ』

これは、彼のこだわりで、セニングという鋤バサミを使った切り方をしないからだそうです。櫛ですくって、普通の鋏でカットするから、伸びるのが均等で崩れない、ということですね。どう考えても、それが一番すぐれている、とわかっている以上、自分をごまかして、ちょっと伸びたら髪形が崩れる、そんな切り方はしたくない、というのが熱帯さんの考え方です。売り上げ的には、売り上げが伸びる切り方があるけれども、ひとつの明解な理想の答えがある以上、そこをズバッと進みたい、そう考えている熱帯さんでした。徹底的に本質を、正論を進んで、ビジネスとしても成立する、大きく成立する必要は無い、そう考えておられます。

ビジネス、利益拡大に向けて徹底できるというのは、現代の社会的価値観を信仰していることにほかなりません。お金が価値の中心であれば、たとえば将来の子どもを導く学校の教師なども限られた給与という点で、価値が低いということになってしまいます。そういう社会を疑念も持たずに、ビジネスに邁進する、それもそれで生き方でしょうが、ある意味、与えられた価値に対してきわめてナイーブな方々といわざるをえません。理想を生きることを価値の軸としたら、自分の理想を売り渡すことは、人生の敗北者ということになります。どちらも、個人に与えられた自由判断なのですが。

熱帯さんは、南の地で、理想に向かって挑んでいます。価値づくりに挑んでいる、といえます。そして、逡巡しています。もし、社会的な価値でそのような態度にものを言うならば、できるだけ早く答えを出して、早く行動して、はやく結果を出してはやく上に上がって、上がり続けていかなければなりません。その上にキリがないのですが。。。熱帯さんは、そこで、逡巡する、という社会に対する含羞:がんしゅうを持っておられます。一円にもならない価値です。でもいいじゃあないでしょうか、あでもない、こうでもない、と迷いながら、すてきな装いを作られてみては。。

オーダーを済ませたら、夜の街に繰り出して、お気に入りのジャズを聴く、おいしいお酒を飲む、ゆっくりぼんやりいったんゼロになって逡巡する、きわめて哲学的な体験です。砂浜で寝そべって、砂はまで、採寸されてもいいかもしれませんね。そのまま台湾にいく手もあります。次回はそれをやってみようと思います。台湾でまたたくさん仲間ができるでしょう。熱帯の地で、味とコクのある、終わりのないトークを愉しむ、約二ヶ月後に宅配便で装いの一式が届きます。永遠の夏休みを生きていられる、そんなレイヤーも準備しておきましょう、きっとまた熱い熱帯さんに会いたくなるはずですね。『社会』はせっかちな答えを求めてきますが、『世界』は魅力的な問いをひとびとに向けて発してるだけの存在です。熱帯が呼んでいます。Tropical calling 、永遠の夏休みがみんなを待っています。熱帯さんがきっとエスコートしてくれるはずですね。。。

ひじょうに長いレポート?でした。もしここまで、この長文を読んでくださった方がおられたとしたら、その方はきっとたいへん貴重なお友だちになれるはずです。まことに、ありがとうございます。一杯ごちそういたします。下は、帰京直前の那覇空港にて、、、。

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