2019/11/02

Voyage en petite robe noir  黒いドレスの旅



黒と言ったとき、それは最初から黒に近いネイビーのことでした。それがタキシードの有名な色の工夫であり意匠なのだということも当時はたんなるトリビアとして知っていただけでした。2001年からエドワードと名乗って注文服業をスタートして記念すべき1番最初の正式な発注者は、こちらのあけみさんでした。そして第1号製作物はまさにこのドレスでした。


” petite robe noire " 小さな黒いドレス 。現在の紳士服を中心としてエドワードエクリュへ続く最初の1着。そもそもが婦人物が第1号だったという事実自体に現在のクライアントは驚くかもしれません。保管に並々ならぬ丁寧さ、几帳面さを持っている彼女に感謝。そしてお子様が誕生した後でもほぼ変わらぬ体型もそれ以上に感謝&尊敬です。製作時と違うのは、このスカート丈です。さすがに17年という歳月のうちに裾が傷んできたためにお直しで3㎝ほど短くなっています。


リトルブラックドレス。シャネル、そしてその後の名女優(名監督、名モデル)たちによって、単なるミニマルな装いから哲学的な深みを持った世界的なシグニチャーにまで高められたもの。プティ:小さな・ローブ:服・ノワール:黒 と書かれているのに、17年前の記憶は曖昧なのですが、当時は黒の限りなく近いネイビーの生地ばかりを選んでいました。


でもさすがに当時は『肩先に向かってスーっと切れ込んでいて直線的で首元スレスレを攻めてくるボートネック』ではありませんね。デコルテの露出は少ないものの、やわらかい曲線を描いています。17年ヘビーローテーションで着ているものの、生地表面も決してグズッていません。中世の僧侶が来ていた目付400g近いタスマニアン・ウールです。最初から典型的なヘビーオンスの英国生地でフランスの美意識に挑んでいたんですね。


以前パリの工房でパターンと縫製をお願いしていましたが、仕事を請けてくれるかどうかの時に直接出向き職人長と面接がありました。『君は、このパリのpetite robe noir とはどんなアイテムだと考えているんだ?』と訊かれ『不良の女性を上品に、優等生の女性を色っぽく見せるドレスですね(原文まま笑)』 と応えたら、通訳を聴いた先方は、笑顔で『立ち上がって君と握手したい気分だ』となりシャンパンで乾杯した思い出があります。


エドワード側がその工房に持参していたドレスについて、最後に彼は感想を言っていたことを今でも覚えています。『シンプルできれいですね!いいと思うよ。でも1点だけ気になる点があるんだけど、紳士物の生地を使っている点だけはどうだろう?と感じるんだ。』そのシンプルなワンピースはジョーゼットやガルゼ、タフタのような婦人物のファンシーなものではなく渋く、苦味走った英国老舗の紳士物の生地を使っていました。。。


それから約10年後、、。金澤の印象美プロデューサー小西さんとの出会いがありました。そして彼女の紹介で、京都与謝野町の絹織物関係者へ橋渡しをしていただきました。『きっと何かおもしろいマリアージュが起きる』と閃きを持っていただいたようです。Toma:トーマさんと木場さんはきっと話すと楽しいと思いますよ~。Tomaさんとは与謝野町長の山添藤真氏のことでした笑。まずは、単身訪問して、地元感あふれるユニークで魅力的なエスコートをいただきました。



2度目は、2018年9月のぼくの誕生日にからめて、金澤まで迎えにきてくださり、エドワードファミリー全体で丹後ツアーをいただきました。ありがとうございます。謎と魅力に満ちた丹後王国の魅力を幽玄な天の橋立の景観と土地の歴史に感じながら、王国の末裔たちのいまのクールなライフスタイルをともに味わわせていただきました。いっしょに同じご飯やお酒を嗜んで愉しめるかどうかは大事な部分だと思います。





鬼シボといわれる、縮緬:ちりめん素材、これは町長のご実家の逸品でもあられます。この丹後縮緬をつかって喪服ドレスという商品が誕生しました。生地をたっぷり使用してドレープとブラウジングに優れた上品なドレスです。そしてこの生地の幽玄さは丹後の海を想わせます。シボによって反射光が分散してマットな風合いです。黒が黒くなり過ぎない、黒です。黒、グレイ、ネイビー、ミッドナイトブルー、、、。黒が容赦のない黒、絶対的すぎる黒だとどうなんでしょうか、、、過分に人工的な印象が出現してしまいます。


この10年でブラックドレスもまるで旅をするように進化しました。しっかりした方針と哲学は持ちながらも、いくつかの出会いによって、色と形は小さい幅ながらもゆっくりと揺らいでいます。黒、濃紺、濃灰、ブルーグレイ、、おそらくそのあたりを揺らいでいるんでしょう。そして素材に関しても、縮緬:ちりめん素材の出会いによって、実質的にはジョーゼット使いのドレスに近い風合いも採り入れています。


一周回ってパリの工房のあの美意識につながったのかもしれませんから、なんとも不思議なものです。結果的に、金澤と京都とフランスと英国の美意識が地下水脈をつうじてマリアージュしました。しあわせなことです。先日この究極の装いのための裏地が完成しました。シルク100%、幽玄さを湛えた、オーガニック独特のカンファタブルな抜けの良さを持つ『丹後の月夜の海』。丹後王国の末裔へのエドワードから別注品です。静かな夜の海ですが、強く凄みのある黒に近い濃紺。生と死をあわせ持つ、スピリットに満ちたさりげない逸品です。



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