2008/07/11
『素材の呪縛、色の呪縛』 SHUZO氏寄稿
そろそろ夏ですが、この時期になると30′sスタイルというのは様々な縛りが生じて来ます。まずはこのスタイル、イギリス発祥という事で、気候的な条件からかなりがっちりした質実剛健な素材で仕立てられてます。特にこの1930年代またはそれ以前のスーツは現代の英国生地と比べてもかなり厚く、重く、密に織られております。
30′sスーツというのが現代に再現が難しいのは、たとえ古(いにしえ)の型紙を使おうとも、このような素材自体が製造されていない。今の薄い生地では30年代特有の立体的なイングリッシュドレープが生まれにくい。そこで足踏みしてしまうのです。
僕は1940年代の英国バートン社製のスーツを所有しておりますが、こちらは綾織りウールの紺色地に赤と白のオルタネートチョークストライプ。しかしその生地感を見て現代との違いに驚かされます。とにかく生地が分厚い!現代ではブレザー製作などに使われる黒や濃紺のサージ等でしかこの重量感にはお目にかかれません。
ストライプや柄物の生地では今はもうこういうものは作られていないと思われます。(ツイード等はのぞく。そのツイードさえ昨今では軽量化の波が…)現代の30′sスタイルというのはとにかくトラウザースをワイドに、バギーなシルエットで作られます。あの時代に全てのスーツがそんなシルエットであったという事は決してありません。
しかしあの時代にはあって、その後ほとんどの時代に見掛けないのがこのバギートラウザースであり、すなわち1930年代を分かりやすくカリカチュアライズ(戯画化)して端的に表現するには一番都合のよいシルエットなのです。(ちなみに30′sのバギーを僕は基本的にはオックスフォードバッグスとはあまり呼びたくありません。<流れで使う事もままありますが(^.^)>オックスフォードバッグスはもっと極端なフレアスカートのようなシルエットも含む20’sのファッドファッションで、30′sのバギーはそれを若干ソフィスティケートしており、名称も“ドレープトラウザース”または“フルカットトラウザース”や“フルパンツ”と呼びたい…と。まあ本当に微妙な違いではあるんですが(^∀^))
このバギーの良いところは、歩くたびに太ももから下あたりの生地がバサッバサッと大袈裟に
動きそこに優雅な美しさを感じる所であります。しかし現代の薄い生地で仕立てたものだと、歩き終わった後立ち止まっても生地がヒラヒラと動き過ぎて、そこに少し遊び人的軽薄さが演出されてしまう恐れを伴うのです。
フレッド・アステアやハリウッドやイギリスの名だたる俳優達もこういったバギートラウザースを穿いていましたが、そこには優雅さと端正さが同居していたように思われます。その視覚的要因として、重くてシッカリした生地の貢献が有るように思うのです。生地がたっぷり裁ってあるので、歩いた時に物凄く大きな動きがあって“優雅さ”を醸し出す。しかし生地がシッカリして重いので、立ち止まった後に生地がヒラヒラ動かずにピシッと止まる。
そこにある種真面目な“端正さ”が醸し出される。素材のチョイスとシルエットのチョイスの妙によって、このドレープスタイルは偶然の奇跡か計算ゆえの必然か、本来あまり同居する事のない二面性を兼ね備えたスタイルとなったように思います。というわけでこのスタイルで素材から選んでメイド・トゥ・メジャーで創るには、まず現代の生地では一番ウエイトの重い部類の生地を探してチョイスする必要があるのです。
望める状況であれば、何処かの国、何処かの田舎に眠っているヴィンテージの生地を探すのがベストかもしれませんが…そして第二の呪縛でやっと冒頭の季節の話になりますが、日本にははっきりとした夏というものがあり、蒸し暑い季節になってまで冬用のヘビーウエイトな服を着ている訳には行かないのです。
そしてイギリスにはそんな蒸し暑い季節はほとんどないらしく、古着をどれだけ探しても「冬用か!」みたいな重~いものしか見当たらないのです。ノスタルジックな時代を描いた映画などでイギリス人の麻のスーツ姿などを見た方もいらっしゃるかとは思いますが、あれは軍人さんで暑い所に駐留させられるとかあるいは旅行するとか、特殊な状況で必要だっただけで、イギリス国内でいる分には麻のスーツなど一生必要無かったのではないでしょうか。
とにかく、麻のオッドジャケットというのはたまに見掛けても、僕は、30′sあたりの古着でイギリス製の麻のスーツ(またはスリーピース)などはついぞ見掛けたことはございません(^.^)ということで、普段「僕のスタイルはイギリスに範を置いてるんだよねぇ」などと似合いもしないのに気取ってる輩(はい僕です(^∀^))が、この時ばかりは「夏の衣料は、まあ…いにしえの日本人に範を置いた方が…ねえ」などといともあっさりとダブルスタンダードを受け入れる羽目に陥ってしまうわけですが…
やはり麻という生地も、薄いがゆえに先ほど言ったような意味(生地の揺れ感が多い)ではバギーなシルエットに仕立てるのも憚られる所ではありますが、そこはそこ。ダブルスタンダードゆえに(^∀^)「麻はまあ、生地の表情にクラシック感、存在感が元々あるから…」と(^.^)やはり昭和初期のおじさんたちが明るい色の麻のスーツにホワイトバックスシューズ、カンカン帽などを被って扇子であおいでいたりする写真をみると「いいなあ…」と…現代の大人はあまりそういう格好をしないだけにあこがれるものがあります。
そこで最後の呪縛、色の呪縛があるわけですが、やはりそういう古い写真やイメージに感化されてか、麻のスーツというと、白っぽいベージュのような生地で仕立てたいと決めつけている自分がいます。これは自分の固定観念に自分が呪縛されるよい例です。自分は前回も書いたようにポップなもの、モード的なる要素も好きな人間であります。
そういう意味では価値基準をフラットにして「色に貴賤なし。どんな組み合わせにしても良いじゃないか」という視点も同時に持ち得て然るべきなのですが、以前デビューで、麻のスーツの話をしていたときに、どうしても「ベージュ」という固定観念から脱出しない僕を尻目にオーナーのS氏が「こういうのもいいんだよねぇ」と黒や紺の麻のスワッチを出して、「こういう黒の麻にベージュのシャツとかも素敵だよね」とおっしゃいました。
う~む…僕なんかより古い洋服を知り尽くしているS氏の方がトラッド的概念に縛られずによりリベラルというかよりモード的「色に貴賤無し」な感覚を持っていることに感嘆し、ここに「こなれる」という要素へのヒントがあるのかな?と…
服装にとって呪縛というのは必要不可欠な要素であり、しかしそれは時に毒にも薬にもなり得るがゆえに、時と場合による「呪縛」の「塩梅」(へんな言葉(^.^))が必要なのかな…と思い至った次第であります。でも麻はやはり白っぽいベージュが(^∀^)…。
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