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2009/08/16
採寸とフィッティング、その他
本日は、同業の方々に採寸全般と注意点などを2時間ちかくスピーチしてきました。ほんと技術と学習について、つくづく考えるのですが、人様に教えると、教えながら逆に自分自身のいろんなところが客観的にみえてきます。
そして、よくやっている部分、と自己評価している点で曖昧なところがあったり、まだまだだな、と認識しているところが、自己評価以上に詳しくよく研究できている、ということがわかったりと、沢山発見があります。同時に、自身のキャリアをスタートさせたころの思い出が蘇ります。
話しながら、全然別の頭の片隅で、追いかけていた思考など備忘録がわりに僕自身の確認のため、文字にしておきます。
基本的には、採寸はスムーズにパパっとやった方がスマートに見えますが、あいまいな点がある時はとことんしつこく測り直したり、かっこうわるかろうが、再度、あるいは再再度、何度でも何度でも納得いくまで測って、数字を採ってくるという行動原則をつくることが大事ですね。
袖丈ひとつにしても、シャツの出方、シャツの手首周りのサイズ、時計のサイズ、着用するスーツの裏地の関係、などいろんな変動要素があって、完璧主義的に納得する袖周りを出現させるのも結構気を使うはずです。トラウザーズの丈にしても、履く靴によって、その靴の甲の高さによっても違いますし、もちろん、裾幅を19.5㎝にするのか、23㎝にするのかによっても違ってきます。
僕自身も大先輩にくらべれば、キャリアは浅いんでしょうが、思い返せば、2000年ごろから本格的に、いろんな先輩方から教えていただいた中で、参考にした意見、参考にしなかった意見、いろいろあります。
思い出してみれば実に面白いです。トラッド、クラシックに関しては、尊敬の念100%なので98%以上のアドヴァイスは素直に聴いてきた(その通りにやってきた)のですが、はっきりと『それは違う』と思って、次の日から正反対のことをした教えが僕には2点あります。
参考までに、採寸とは全く関係なくて接客についてですが、1点は、ビスポーク・テーラーとして、まずお客様とは『政治』 『宗教』 『野球』 の3つの話題はするな、それはタブーだ、というアドヴァイスでした。
これはその場では、きちんとノートに取ってうなずいていましたが、絶対にそれは違う、と瞬間的に深い部分での確信があったので、先輩には内緒で、その次の日にすぐ、顧客営業先で『政治』 『宗教』 『野球』の話題をエンジン全開でやってみました。
結果的はどうなったかというと、新規のお客様からスーツ2着分の注文をいただきました。妙な反骨精神エネルギーに着火されたせいで、スパークした状態で、プレゼンがノリまくったという理由もあったかもしれませんが、自分自身に関しては、これは当てはまらないのだな、ということを実証できて、未知の自信と力にできました。
取捨選択も大事ですね。クラシックやトラッドにしても、叩き台である点がすばらしいですね。ある意味先輩のアドヴァイスもたたき台ですから、いかようにも自身の栄養にすれば良いわけですね。
もうひとつは、売り手が、すでにもっている“良いスーツ”についての知識や、仕様など、手の内を最初から全部出してはいけない、小出しにすべきだ、でないと、お客様は飽きてくる、ちょっとずつちょっとずつ出して行って、ず~っとお付き合いしていくのが大事、というこの商売のコツのようなものでした。これも、僕は最初から違う、と感じたので一度も従いませんでした。
なぜならば、新規で1着目であっても、予算の範囲内で現時点で一番最高というものを提供できたとしても、そこからまだまだもっともっと良いフィッティングがあるかもしれないし、もっと良い仕様が出現するはずで、機械縫製であろうと、パターンオーダーであろうと、その範囲内で厳しい審美眼で仕上がったスーツを自己評価した時、美しさの先はまだあるわけだし、現時点でできる全力をやって、手のうち全部出してもまだ時間が足りないだろう、と感じるからです。これは現在でも同じです。
たとえ、それで、なるほどこれが君の最高で、君的には出し尽したわけね、と言われて顧客との関係が終わりになったとしても、全くもって上等よ、という気概が大事ですね。なんとなれば、顧客とテーラーの最高の人間関係づくりが出来る、より豊かな関係性がつくれる人はこの世界にその人以外にまだ数十億人いるわけですから。自身の活躍するステージを一層上げていく良い機会だと、割り切ってより正確にリアリティを感じれば良いだけですね。
仮に『イイものを安く』の姿勢が、極端に行き過ぎてしまうと、徹底してモノだけにフォーカスした付き合いになってしまうので、それは量販店にお任せしたほうが賢いわけです。いろんな意味で、『お互いの利のキャッチボール』が豊かな形で育っていく関係でないと、愉しくならないですし、本当の豊かさも共有できませんから、さらに良き付き合いへと進んでいけばよいわけですね。
船場吉兆や、世の中を賑わせたもろもろの事件のように、良いものをとにかくちょっとでも安く食べたいという買い手と、それに応えてしまう売り手の度外れた“WIN-LOSE合戦”になってしまうと、あらゆる意味での『利自体』が痩せ衰えていく関係になりますね。
価格競争にならないゆとりを持った関係づくりが最高ですね。一年に一度は、海外視察が出来て、その見聞をアドヴァイスとして、あるいは商品開発としてフィードバック、R&D出来たり、感謝の気持ちを持って、快くお客様にお土産を買ってきたくなったりする関係をつくるのには、充分考えられた納得できる価格設定が大事、ということになりますね。あれれ、以上、真面目に小難しいことを書きました。
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